東北タイのプラユン地域における塩水地下水の上昇機構の解明
東北タイの地下60m~150mに分布する岩塩層に由来する塩水地下水の上昇機構を検討した。その結果、断層が塩水地下水の上昇通路として機能していること、、地下水位がデッドラインより低下したときに圧力水頭分布は上向きの地下水流を発生させることを明らかにした。
背景・ねらい
東北タイの塩類集積地は、全面積の15%程度を占め、耕地荒廃の一因となっている。土壌中の塩が、この地域の地下60m~150mに分布する岩塩層に由来することは、研究者間で一致している。残された問題は、岩塩から溶出した塩水地下水がどの様にして地表近くまで上昇するかである。塩水地下水の上昇機構を解明するために、ボーリング資料等から上昇通路となる断層分布を推定し、地下水観測から断層付近の塩水地下水の挙動を明らかにした。
成果の内容・特徴
- 調査地域は、コンケンの市街地から南西およそ30kmに位置する塩類集積の顕著なプラユン地域である。ここでは、3km×3kmの範囲に、1km間隔で調査ステーション(A1~A16)が配置されている。各ステーションには5m、10m、15m深度の調査井(5m井、10m井、15m井と呼ぶ)が設置されている。
- ボーリング調査、リニアメント解析、既存資料の解析から調査地域にG1、F1、F2、F3断層を推定した(図1)。
- 塩水地下水は、G1とF1断層を通路として、地下水から供給されている(図2)。A5ステーションはG1断層近くにある。しかしすべての断層が、塩水地下水の供給通路となるわけではない。
- A5ステーションの15m井の地下水位と地下水の電気伝導度値(EC値:塩分濃度と相関する)との関係は、地下水位が標高187.4m(デッドラインと呼ぶ)より低下したときに急激にE C値が上昇する傾向を示す(図3)。このとき15m井の圧力水頭(地下水位)が最も高く、地下水の流れは上向きのフラックスを示す。EC値は、地下水位がデッドラインに達する前に、最も低い値を示す。
- 1995年4月の等圧力水頭分布図(図4)では、A5付近の187mの等圧力水頭線が東側に張り出していた。そのため、ここでの地下水流のフラックスは上へ向いている。一方、同年9月のそれでは、189mの等圧力水頭線は、西に張り出している。従ってここでの地下水流のフラックスは下に向いている。地下水位がデッドラインより下に減少したとき、上向きの地下水流のフラックスが最大に達し、塩水地下水が断層亀裂を上昇し、地表近くに分布するようになったと考えられる。
成果の活用面・留意点
断層付近の地下水位がデッドライン以上に水位を維持管理すれば、塩水地下水の上昇を制御できることが示された。デッドラインは場所により異なるので、管理計画を立てる前に、地下水観測により計画地のデッドラインを明らかにしなければならない。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 環境資源部
- 予算区分
- 国際農業[東北タイ]
- 研究課題
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塩水地下水の形成機構の解明
- 研究期間
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平成8年度(6~10年度)
- 研究担当者
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今泉 眞之 ( 環境資源部 )
WICHAIDIT Pichai ( タイ王国農業協同組合省土地開発局 )
Sukchan Somsak ( タイ王国農業協同組合省土地開発局 )
SRISUK Kriengsak ( タイ王国農業協同組合省土地開発局 )
- ほか
- 日本語PDF
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1996_04_A3_ja.pdf1.14 MB