岩石溶解過程における岩石の物理的性質の影響
多様な岩石の溶解実験を行い、溶解量と物理的性質との関係を明らかにし、初期化学的風化及び初期土壌生成過程における母岩からの溶解特性を得た。その結果により、岩石の溶解反応における間隙率依存性が定量的に求められた。
背景・ねらい
地球表層環境における風化変質の初期段階では、水―岩石相互反応による固相の溶解過程が最も重要である。従来より「鉱物」の溶解過程を論じた研究例は多いが、「岩石」の溶解過程に関する研究は少ない。さらに、多岩型の溶解特性の比較を行った例は希有である。また、多くの溶解実験は粉末もしくは試料料細粒化後の状態で行われる。。本研究では、多様な特性を有する、最も一般的な13岩型の溶解実験を等体積及び等形状条件下で行い、各岩型の溶解特性と物理的性質との対応を試み、初期化学的風化及び初期土壌生成過程における母岩からの溶解機構の解明を目的とした。
成果の内容・特徴
表1に示した13岩型の岩石試料(3.54mm×3.54mm×20.00mmに切断後、#1000研磨剤により表面を平滑化)と粉末試料(1.000g)とを出発物質とした。各岩型ごとの両試料を100mlの反応容器に入れ、蒸留水50.0mlに溶解させた。実験開始後、適宜、電気伝導度、化学組成等を測定した(図1)。電気伝導度の時間変化曲線は、次式で最もよく近似された。
Ec = Ef [ 1-exp (-λt-b) ] (1)
ここでは、Ec は電気伝導度、Ef は実験終了時の電気伝導度、λは係数、tは実験開始後の経過時間、bは定数である。各試料におけるλと岩石試料の間隙率との関係を図2に示す。なおλと粉末試料の比表面積との間に顕著な相関関係は認められなかった。また岩石試料と粉末試料との反応特性の相違を同一岩型で比較するため、同一経過時間における岩石試料のEcを粉末試料のEcで割り、その値の時間変化を求めた(図3)。以上により次の結論が得られた。
- 火成岩の粉末試料では、アルカリ成分の量に反応してフェルシック(珪長質)岩よりマフィック(苦鉄質)岩の方が溶解するが、岩石試料では、化学組成の相違に対応した溶解系列は認められない。
- 岩石試料における初期反応では、岩石の間隙率が高いほど速やかに進行する。
- 岩石試料と粉末試料とでは初期溶解特性が異なるため、従来の研究のように、粉末試料のみを用いた実験の結果から、岩石の化学的風化における初期溶解過程を論じることはできない。
- 間隙率の高い岩型は、反応初期に岩石試料と粉末試料との溶解量の差が小さく、その後徐々に増加する。間隙率の低い岩型では、反応初期から岩石試料と粉末試料との溶解量の差は大きく、その後もあまり増加しない。したがって岩石試料の初期溶解過程では、間隙の影響がきわめて大きい。
成果の活用面・留意点
多様な岩石の溶解における特性及び物性の効果が得られたため、種々の地表環境における岩石の変質及び土壌生成過程の理解に活用される。
具体的データ
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表1 試料の物理的性質
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- Affiliation
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国際農研 環境資源部
- 分類
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研究
- 予算区分
- 経常
- 研究課題
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岩石の変質・破壊過程 -岩石・鉱物・土壌の特性変化の解明-
- 研究期間
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平成8年度(平成5~9年度)
- 研究担当者
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八田 珠郎 ( 環境資源部 )
- ほか
- 発表論文等
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高屋, 八田, 松倉 (1996) 堆積岩類および火成岩類の溶解特性に及ぼす岩石物性の影響. 地形, 17, 193-202.
- 日本語PDF
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1996_05_A3_ja.pdf832.66 KB