乾燥地で作物生育を促進する溝底播種
土壌面の溝底では、土壌水分の減少と塩類集積が遅れ、地温の日変化が抑制される。そのため、乾燥地で深さ5cm程の溝底に播種すると、作物の発芽・生育が促進される。
背景・ねらい
乾燥地の農業は、これまでも限られた水資源に依存してきた。近年、世界的に、新しい農地の開発、砂漠の緑化、生活・工業用水の需要拡大などによりこの水資源がさらに切迫している。この研究の背景となる中国、新彊ウイグル自治区のダンバンチュンギュット沙漠南縁では、このような状況にも関わらず、農地に多量な水が潅水されている。そこで、農業用水を効率的に利用するために、過度な潅水に頼らずに作物生育を促進する技術を開発する。
成果の内容・特徴
- 溝底播種は発芽率・生育を促進し、その効果は新彊で慣行的な湛水海概を上回る(表1)。
- 深さ5cm程の小さな溝でも、その底では土壌水分の減少と地温上昇が抑制される(表1、図2)。
- 溝底では、蒸発が抑制されるので塩類集積が遅れる(表2)。
- 溝を南北方向に作ると、生育初期に朝夕の日射を遮り水ストレスの軽減に役立つ。この方法では、作物生育にしたがって、遮光条件から徐々に馴化する利点がある(図3)。
- これらの影響で、溝底播種では播種1ヵ月以内に、25から35mmの潅水を節約する(図4)。
成果の活用面・留意点
- 伝統的に多くの乾燥地で多量な潅水に頼ってきたのは、下層の塩の上昇を抑制するためである。したがって、節水栽培の導入には、塩害の危険を回避するため、塩動態のモニタリングが不可欠である。
- 日本でも夏の低温性作物では同様の効果が得られる。とくに、西日本のコカブ栽培で良好な結果が報告されている。しかし、ホウレンソウでは、抽苔が早まる場合があり、この原因は不明である。また、ホウレンソウの萎凋病常発地では、病害が助長されるので利用できない。
具体的データ
- Affiliation
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東北農業試験場
- 分類
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研究
- 予算区分
- 国際農業(乾燥農業限界地域) 経常(根圏物理環境の変化が作物の生育に及ぼす影響の解明)
- 研究課題
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溝底播種とべたがけの節水効果
- 研究期間
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平成7・9年度, 平成8~12年度
- 研究担当者
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小沢 聖 ( 東北農業試験場 )
鮫島 良次 ( 環境資源部 )
- ほか
- 発表論文等
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小沢聖・Yang Ge・Gu1inur・鮫島良次 (1996): 新彊緑洲農業中新節水栽培方法的探討. 千早区研究, 13, 24-31.
K.0zawa and T. Luo: Passive techniques to improve water use efficiency and p1ant growth in arid regions. ActaHor (In press).
- 日本語PDF
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