マイクロアレイを用いた高等植物の転写因子DREB1Aが制御する環境ストレス耐性遺伝子群の同定

要約

乾燥・塩・低温ストレス耐性が向上したDREB1A遺伝子組換えシロイヌナズナでは適合溶質合成酵素、解毒酵素、高分子の保護因子であるLEAタンパク質等多様な遺伝子が複合的に機能していることが、cDNAマイクロアレイを用いる解析により明らかになる。

背景・ねらい

   近年、砂漠化や土壌の塩類化等地球規模の環境劣化が深刻化している。また、世界各地で異常気象が報告されており、農業生産に大被害を及ぼしている。このため、突然の異常気象や劣悪環境下でも栽培可能な作物や環境保全に役立つ植物を開発することは、国際的に重要な課題となっている。これまでに、 環境ストレス耐性の獲得に関与する転写因子の遺伝子を用いた遺伝子組換え技術により、植物に高いス トレス耐性を付与できることを示した。この組換え植物中での変化を分子レベルで解析して、獲得されたストレス耐性機構を分子レベルで明らかにするとともに、遺伝子組換え技術の実用化に向けた基礎研究を行う。

成果の内容・特徴

  1. シロイヌナズナの1300個または7000個の完全長cDNA を用いて、cDNA マイクロアレイを作成する。
  2. 野性株のシロイヌナズナとDREB1A を過剰発現したストレス耐性な遺伝子組換え植物(35S:DREB1A) より単離したRNA から、それぞれCy5 とCy3 でラベルして合成したcDNA を用いて、上記cDNA マイク ロアレイとハイブリダイゼーションを行う(図1)。
  3. 1300 cDNA マイクロアレイを用いて、12種の遺伝子が転写因子DREB のターゲットであることが明 らかになった。ノーザン法で解析すると全ての遺伝子が低温・乾燥・塩ストレスによって誘導され、さ らに35S:DREB1A 植物で高発現する。12種の遺伝子はこれまでに明らかにされているターゲット遺伝 子6種と今回初めて明らかになった新規の6種の遺伝子である(図2)。
  4. これらの遺伝子のプロモーター領域を検索すると、配列が不明な1種の遺伝子を除き、11種の遺伝 子に転写因子DREB の結合配列であるDRE 配列が存在している。
  5. 7000 cDNA マイクロアレイを用いて解析すると、さらに30種の遺伝子がターゲットとなっている。 これらの遺伝子群にはシャペロン、LEA タンパク質、膜輸送タンパク質、転写因子、リン脂質代謝系 酵素、解毒酵素等のストレス耐性遺伝子が含まれており、複合的に耐性獲得のために機能している。
  6. DREB 遺伝子組換え体中では本来植物中でストレス耐性獲得のために働いている遺伝子群が効率よく働くよう変化するため、強い耐性が付与される。

成果の活用面・留意点

   植物の遺伝子を用いた遺伝子組換え技術によって開発される作物の安全性は、バクテリア等の他生物の遺伝子を用いた場合に比較して高いと考えられる。

具体的データ

  1.  

    図1
  2.  

    図2
Affiliation

国際農研 生物資源部

分類

研究

予算区分
技会プロ〔形態生理〕
研究課題

マイクロアレイを用いた高等植物の転写因子DREB1A が制御する環境ストレス耐性遺伝子群の同定

研究期間

2001 年度(1998 ~ 2003 年度)

研究担当者

篠崎 和子 ( 生物資源部 )

春日 美江 ( 生物資源部 )

圓山 恭之進 ( 生物資源部 )

阿倍 ( 生物資源部 )

原明 ( 理化学研究所 )

篠崎 一雄 ( 理化学研究所 )

科研費研究者番号: 20124216

ほか
発表論文等

Seki, M., Narusaka, M., Abe, H., Kasuga, M., Yamaguchi-Shinozaki, K., Carninci, P., Hayashizaki, Y. and Shinozaki, K. (2001):Monitoring the expression pattern of 1300 Arabidopsis genes under drought and cold stresses by using a full-length cDNA microarray. The Plant Cell, 13 (1), 61-72.

Seki, M., Narusaka, M., Yamaguchi-Shinozaki, K., Carninci, P., Kawai, J., Hayashizaki, Y. and Shinozaki, K. (2001):Arabidopsis encyclopedia using full-length cDNAs and its application. Plant Physiology and Biochemistry, 39; 211-220.

Shinozaki K. and Yamaguchi-Shinozaki K. (2000):Molecular responses to dehydration and low temperature: differences and cross-talk between two stress signaling pathways. Current Opinion in Plant Biology, 3; 217-223.

特許第3178672 号:環境ストレス耐性植物

特許第3183458 号:植物の転写因子をコードする遺伝子

日本語PDF

2001_02_A3_ja.pdf690.79 KB

English PDF

2001_02_A4_en.pdf56.91 KB

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