イネの環境ストレス応答性プロモーターと転写因子OsNAC6を用いた環境ストレス耐性イネ作出技術の開発

要約

イネOsNAC6タンパク質は環境ストレスに対する耐性の獲得機構で働く転写因子である。OsNAC6をイネ中で多量に作らせると、環境ストレス時に機能する複数の耐性遺伝子が強くはたらくようになり、乾燥および塩ストレス高いレベルの耐性を示すが、植物には生育阻害が見られる。イネのストレス誘導性プロモーターを利用して、ストレスを受けたときにOsNAC6を多量に作るように改変したイネでは、生育阻害が改善される。

背景・ねらい

植物は劣悪な環境になると、多数の耐性遺伝子群を働かせることにより耐性を獲得して適応している。これらの環境ストレスに対する耐性の獲得機構で働く転写因子は、一度に多数の耐性遺伝子を制御して、高い耐性を植物に付与するため重要な有用遺伝子と考えられる。本研究課題では、単子葉のモデル植物であり重要な穀物でもあるイネが乾燥などの環境ストレスを受けた時、多量に合成される転写因子OsNAC6に関する研究を行っている。OsNAC6遺伝子と、イネのストレス誘導性プロモーターを利用して、生育阻害がほとんど見られることなく、ストレス耐性が向上したイネを作出する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  1. イネのNAC型転写因子OsNAC6の遺伝子は、乾燥、塩ストレス、低温といった環境ストレスだけでなく、いもち病菌の感染および傷害ストレスに対しても応答して発現することを見出した。
  2. トウモロコシの恒常的にはたらくプロモーター(遺伝子発現を調節する領域)であるユビキチンプロモーターを用いてOsNAC6遺伝子を過剰に作らせたイネでは、初期生育不良と種子収量の減少が見られたが、イネのストレス応答性のプロモーターであるOsNAC6プロモーター(POsNAC6)およびLIP9プロモーター(PLIP9)を用いて、OsNAC6遺伝子を過剰に作らせたイネでは、初期生育の不良および種子収量の減少が軽減した(図1a、b)。
  3. POsNAC6およびPLIP9を用いて、OsNAC6と蛍光を発するクラゲのタンパク質であるGFPを融合したタンパク質の遺伝子を発現させたイネでは、乾燥ストレスあるいは塩ストレスを受けた際、細胞核にOsNAC6-GFP融合タンパク質が蓄積することが確認された(図1c)。
  4. POsNAC6およびPLIP9を用いて、OsNAC6遺伝子がストレス時に強くはたらくように改変したイネは、幼苗期において、塩ストレスに対して、高いレベルの耐性を示した(図2)。幼苗期における乾燥耐性も向上した。
  5. マイクロアレイ解析法により、OsNAC6遺伝子を過剰発現させたイネにおけるゲノム全体の遺伝子の発現を調べると、パーオキシダーゼをはじめ多数のストレス耐性に関わるタンパク質の遺伝子が強く発現していた。これらの耐性遺伝子のはたらきでストレス耐性が向上していると考えられた。

成果の活用面・留意点

  1. イネのOsNAC6 遺伝子は、塩ストレスおよび乾燥ストレスに対する耐性が向上したイネ科作物を開発するために利用できると期待される。ただし、幼苗期のストレス耐性は確認したが、成体における耐性および圃場での塩耐性、干ばつ耐性については、今後の解析が必要である。
  2. イネのストレス応答性プロモーターであるPOsNAC6およびPLIP9は、OsNAC6など、ストレス耐性向上と同時に生育阻害も引き起こすタンパク質の遺伝子を利用して耐性イネ科作物を開発する際に利用できると考えられる。しかし、今回単離されたプロモーターを用いても若干の生育阻害が認められたことから、より優れたストレス応答性プロモーターの探索あるいはプロモーターの改良を行う必要がある。

具体的データ

  1.  

    図1 イネのストレス応答性プロモーターを利用したOsNAC6遺伝子発現イネの作出
    図1 イネのストレス応答性プロモーターを利用したOsNAC6遺伝子発現イネの作出
    イネのストレス応答性LIP9プロモーター(PLIP9)およびOsNAC6プロモーター(POsNAC6)を用いてOsNAC6遺伝子を導入したイネでは、恒常的プロモーター(PUbi)を用いた時に比べ幼苗期の生育阻害 (a) および種子収量の減少 (b) が軽減した。PLIP9およびPOsNAC6を用いてOsNAC6-GFP融合タンパク質の遺伝子を導入したイネでは、塩ストレスを受けたイネの根の細胞核(矢印)にOsNAC6-GFP融合タンパク質が蓄積した (c)。バーは50 μm。(Nakashima et al. 2007参照)
  2.  

    図2 ストレス応答性プロモーターを利用したOsNAC6遺伝子発現イネのストレス耐性
    図2 ストレス応答性プロモーターを利用したOsNAC6遺伝子発現イネのストレス耐性
    PLIP9およびPOsNAC6を用いて、OsNAC6遺伝子がストレス時に強くはたらくように改変したイネは、塩ストレスに対して高いレベルの耐性を示した。発芽2週間のイネを250mM NaCl溶液で3日間処理後、NaClを含まない水耕液に移して栽培を続けた。バーの左側は、NaCl処理後も、新葉を出して生き延びたイネ。右側は枯死したイネ。(Nakashima et al. 2007参照)
Affiliation

国際農研 生物資源領域

分類

研究

予算区分
交付金〔ストレス耐性機構〕 受託〔農水省〕等
研究課題

植物の環境ストレス耐性機構の解明と耐性作物の開発

研究期間

2007年度(2004~2011年度)

研究担当者

中島 一雄 ( 生物資源領域 )

伊藤 裕介 ( 生物資源領域 )

圓山 恭之進 ( 生物資源領域 )

篠崎 和子 ( 生物資源領域 )

ほか
発表論文等

Nakashima, K., Tran, L.-S., Van Nguyen, D., Fujita, M., Maruyama, K., Todaka, D., Ito, Y., Hayashi, N., Shinozaki, K. and Yamaguchi-Shinozaki, K. (2007): Functional analysis of a NAC-type transcription factor OsNAC6 involved in abiotic and biotic stress-responsive gene expression in rice. Plant J. 51: 617-30.

日本語PDF

2007_seikajouhou_A4_ja_Part8.pdf513.98 KB

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