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熱帯雨林の健全な世代交代のための種子生産の条件を解明
-熱帯林業経営の持続性向上に必要な健全種子確保に期待-

発表日:平成24年2月28日

ポイント

  • 遺伝子解析によって、有用林業樹種、フタバガキ科セラヤの繁殖特性を解明
  • 森林更新に不可欠な生存力の高い種子生産を容易にする、新たな伐採指針を提案
  • 枯渇する熱帯林の木材資源を維持し、持続的な熱帯での林業手法の開発に貢献

概要

独立行政法人国際農林水産業研究センター及びマレーシア森林研究所は、南洋材ラワン(フタバガキ科樹木の総称)を産出する、丘陵フタバガキ林の代表樹種であるセラヤ(Shorea curtisii)の花粉の散布距離と、樹木の幹の直径と種子生産に有効な花粉生産量を、種子の親子関係の遺伝子解析により明らかにしました。

マレーシアの林業では、幹の直径が一定以上の木だけを伐採する「択伐」と呼ばれる手法により木材が収穫されます。しかし、この手法は、次世代の森を作る健全な苗が育ちにくいという問題を抱えています。

これは、択伐により木々の間の距離が遠くなり、花粉が他の木に届かないことや、択伐で残された幹の細い木では花粉が十分に生産されないことから、種子を作る際に、他個体の花粉と受粉(他殖)できず、自らの花粉と受粉してしまう(自殖)ため、生存力の高い種子が生産されにくいためと考えられていました。

今回の研究により、セラヤの花粉の散布距離や幹の直径と花粉生産量など、繁殖特性が明らかになりました。これらの科学的根拠に基づき、遺伝的に多様な森林を育むための新たな伐採指針を提案したことで、熱帯林業経営の持続性の向上が期待されます。

問い合わせ先

独立行政法人国際農林水産業研究センター (茨城県つくば市)理事長 岩永勝
研究推進責任者:林業領域長 田淵隆一 Tel 029-838-6309
研究担当者:林業領域 谷尚樹 Tel 029-838-6360
広報担当者:企画調整部情報広報室長 大浦正伸 Tel 029-838-6708 FAX 029-838-6337


研究の背景

熱帯林の減少・劣化が国際的な問題として認識されて久しいですが、近年、熱帯林業においても持続可能な林業経営への取り組みが進みつつあります。しかし、フタバガキ科など有用樹種の更新は困難で、伐採後、放置された森林が多く存在します。マレーシア半島部の丘陵フタバガキ林では、幹の直径が50センチ以上の樹木を選んで伐採する「択伐」が行われてきましたが、有用樹種の更新は必ずしもうまくいっていませんでした。この理由として、フタバガキ科樹木の密度が択伐により低下するため、昆虫等によって花粉が他の個体に効率的に運ばれず、健全な種子生産ができないことが指摘されていました。このため、健全な種子生産を維持し、有用樹種の世代交代を促進する、森林資源を持続的に利用する熱帯林業の確立が求められています。
一方、2007年にバリ島で開催された気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)では、途上国の森林減少のほか森林劣化による温室効果ガスの排出削減や森林保全等を加えたREDDプラスの必要性が強調されました。熱帯林における資源回復技術の確立は、木材生産だけでなく、地球温暖化対策としても求められています。

研究の内容

  • マレーシア・セマンコック試験地(写真1)において、1998年と2005年の大規模な一斉開花と2002年の小規模な一斉開花時に約1500個のセラヤの種子を採集し、その親子関係について、遺伝子解析を行いました。
  • 花粉親と種子を採集した木の距離が花粉散布距離となります。この平均距離は約60メートルと試験地の他樹種に比べ、非常に短いものでした(図1)。
  • 各花粉親の幹径と生産した花粉の量(何個の種子に花粉親として貢献したか)との関係を調べたところ、択伐後に残される小径木(直径が50センチ以下)はほとんど花粉を生産していないことが分かりました(図2)。
  • 択伐後、成熟した個体の密度が低下し、花粉が他の個体まで到達しない可能性が高いうえ、残された個体では花粉生産量が低く、健全な種子を生産する他殖が行われにくい可能性が明らかになりました。
  • これらの結果を踏まえたシミュレーションから、幹径が70から90センチの個体を残すと効率よく他殖を維持できることが推定されました。

モデルから推定された花粉散布距離
図1 モデルから推定された花粉散布距離

樹木のサイズと花粉親としての貢献度との関係
図2 樹木のサイズと花粉親としての貢献度との関係
黒丸と白丸は目視による非開花木、開花木を表す

 

樹上から見たセマンコック試験地の様子
写真1 樹上から見たセマンコック試験地の様子
白く見えるカリフラワーのような林冠がセラヤ

今後の予定・期待

本解明により、現在行われている択伐方式を改善することで、林業の持続性に必要な健全な森林の世代交代を維持する可能性を示すことができました。樹木の次世代への更新を促進し、資源に富んだ熱帯雨林の維持とその利用を通じて森林劣化を防ぎ、REDDプラスへの貢献も期待できます。

発表論文

N. Tani, Y. Tsumura, K. Fukasawa, T. Kado, Y. Taguchi, S.L. Lee, C.T. Lee, N. Muhammad, K. Niiyama, T. Otani, T. Yagihashi, A. Ripin and A.R. Kassim. Male fecundity and pollen dispersal in hill dipterocarp: significance of mass synchronized flowering and implications for conservation. Journal of Ecology, 100(2) 405-415p. (2012)
doi: 10.1111/j.1365-2745.2011.01929.x

用語の説明
  • 択伐
    マレーシア半島部の丘陵地のフタバガキ林では伐採前の調査を行った後、一定以上の幹に生育した木を収穫する手法が導入されており、現在、フタバガキ樹木では幹の直径が50センチ以上の個体を伐採します。伐採後、植林作業などは行われないため、残された樹木による自然な生殖によって出来た種子による次世代への更新を期待しています。
  • 他殖
    フタバガキ科樹木は雌しべと雄しべが同じ花の中に存在します。他の木の花粉が昆虫によって運ばれ受粉し、生殖することを他殖といいます。一方、自らでも生殖を行うことが出来ますが、この場合、種子の発芽力や生存力が低いことが報告されており、他殖の種子生産を増やすことが、森林の持続性を向上させます。
  • REDDプラス
    途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガスの排出の削減に向けた取組(REDD:Reducing emissions from deforestation and forest degradation in developing countries)に途上国における森林保全等を加えた考え方。