高等植物の乾燥耐性に関与する遺伝子の単離と発現機構の解析

要約

モデル植物であるシロイヌナズナと耐旱性のマメ科作物であるカウピーを用いて、乾燥耐性に関与する遺伝子群を単離してその構造と機能、乾燥による遺伝子発現を制御するプロモーターを明らかにし、乾燥耐性植物作出のための基礎的知見を得た。

背景・ねらい

環境耐性植物の作出は農業生産問題からも環境問題からも国際的に重要な課題である。バイオテクノロジーを用いた環境耐性植物の作出は複雑な植物の機能を分子レベルでコントロールすることになり、植物が本来持っている環境耐性機構の解明が重要なポイントと考えられる。本研究は分子遺伝学的解析が進んでおりモデル植物として注目されているシロイヌナズナと耐旱性のマメ科作物であるカウピーを用いて、乾燥耐性に関与する遺伝子の機能と発現機構を明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  1. シロイヌナズナ(図1)を用いて乾燥ストレスで誘導される9種のcDNAを単離し、RDと名付けた。RDの塩基配列を決定し、データベースとの検索から乾燥耐性の獲得に関与すると考えられる種々のタンパク質との相同性が見いだされた。
  2. 乾燥から植物細胞を保護する働きを示すと考えられる親水性タンパク質をコードするrd29A遺伝子は乾燥ストレスにより短時間に強い発現を示す。このrd29A遺伝子のプロモーター領域をリポーター遺伝子と結合したキメラ遺伝子を作成し、タバコとシロイヌナズナに導入した。得られた遺伝子導入植物の解析から、このプロモーター領 域によって乾燥ストレスによる遺伝子発現が誘導されることを示した(図2、図3)。
  3. プロモーター領域に欠失変異を加えた実験や種々のDNA断片を結合した実験からrd29A遺伝子の乾燥誘導を制御するシスエレメントがTACCGACATから成る9塩基の配列であることを明らかにした。
  4. 乾燥耐性作物であるカウピー(図4)より乾燥ストレス耐性に関与する14種の遺伝子を単離し、これらの遺伝子が乾燥状態で特異的に発現していることを示した。

成果の活用面・留意点

シロイヌナズナとカウピーより得られた乾燥耐性に関与する遺伝子は乾燥耐性植物作出のための導入遺伝子として、また、rd29A遺伝子のプロモーターは導入遺伝子の植物内での発現制御のために有用と考えられる。

具体的データ

  1. 図1
  2. 図2
  3. 図3
  4. 図4
Affiliation

国際農研 生物資源部

理化学研究所

分類

研究

予算区分
バイテク育種
研究課題

乾燥ストレス応答遺伝子の単離と解析

研究期間

1993年度(1993~1995年度)

研究担当者

篠崎 和子 ( 生物資源部 )

寺尾 富夫 ( 生物資源部 )

篠崎 一雄 ( 理化学研究所 )

科研費研究者番号: 20124216

ほか
発表論文等

Yamaguchi-Shinozaki, K. and Shinozaki, K. (1993) Characterization of the expression of a desiccation-responsive rd29 gene of Arabidopsis thaliana and analysis of its promoter in transgenic plants. Mol. Gene. Genet, 236, 331-340.

Yamaguchi-Shinozaki, K. and Shinozaki, K. (1994) Novel cis-acting element in an Arabidopsis gene is involved in responsiveness to drought, low temperature, or high-salt stress. Plant Cell, 6, 251-264.

日本語PDF

1993_02_A3_ja.pdf895.68 KB

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