マレイシア・ムダ地区における2,4-D抵抗性型ヒデリコの分布と除草剤に対する反応
マレイシアのムダ地区で発見された2,4-D抵抗性型のヒデリコは、感受性型に比べて29倍の抵抗性を示すが、使用する除草剤を変えることによって容易に防除でき、短期間で抵抗性型の発生率を低下させることが可能である。
背景・ねらい
広葉及びカヤツリグサ科雑草対象除草剤として、2,4-Dはマレイシアの直播水田で広く使用されている。しかし、2,4-Dで枯殺できないカヤツリグサ科雑草ヒデリコ(Fimbristylis miliacea (L.) Vahl.)が、1989年にムダ地区のグラウ村で見つかった。この2,4-D抵抗性型ヒデリコは、形態による感受性型との識別ができず、同地区での分布拡大が懸念されている。
そこで、除草剤抵抗性型雑草の発生抑制法を検討するために、2,4-D抵抗性型のヒデリコのムダ地区における現時点での分布と、数種除草剤に対する反応を検討した。
成果の内容・特徴
- 感受性型ヒデリコが2,4-Dジメチルアミン液剤の通常使用量(0.087g a.i./m2)の処理によって死滅したのに対して、抵抗性型はその32倍の薬量(2.78 g a.i./m2)を処理してもその後回復した(図1)。半数致死薬量(LD50)では、両型の間に29倍の違いがあった。
- 抵抗性型は、2,4-Dブチルエステル水和剤、2,4-Dエチルエステル水和剤、2,4-Dナトリウム塩水溶剤、MCPA各剤に対しても抵抗性であったが、プロパニル、パラコート、グルフォシネイト・アンモニウム塩に対しては交差抵抗が見られなかった(表1)。
- 1993年に行った分布調査の結果、ムダ地区100筆のヒデリコ多発水田のうち5筆の水田で抵抗性型個体の発生が確認されたが、残りの95筆の水田では感受性型のヒデリコが多発していたことから、同地区での抵抗性型の発現頻度は低いと考えられた(図2)。
- 抵抗性型が見つかったグラウ村では、70筆の水田のうち69筆の水田で抵抗性型ヒデリコの発生が認められた。抵抗性型個体の割合が86%であった水田でその後2,4-Dを使用せずスルフォニルウレア系除草剤を用いたところ、2年間で抵抗性型の割合が1.7%にまで低下した。
以上の結果から、2,4-D抵抗性型ヒデリコは感受性型に比べて29倍の2,4-D抵抗性を示したが、使用する除草剤を変えることによって容易に防除できること、短期間で抵抗性型の発生率を減らすことが可能であることが分かった。
成果の活用面・留意点
本研究の成果では、現在でも2,4-Dを中心とした防除体系がとられている地域の稲作での雑草防除法の策定に有用である。また本研究手法は今後発現が懸念されているスルフォニルウレア剤など他の除草剤に対する抵抗性雑草の研究にも利用できる。
但し、除草剤の作用性や雑草の生育は地域によって大きく異なることが予想されるので、本情報の適用範囲は熱帯稲作地域に限られる。
具体的データ
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薬量(奥) 7.0×10-1 1.4 2.8 5.6 11.1 ga.i/m2
薬量(中) 2.2×10-2 4.4×10-2 8.7×10-1 1.7×10-2 3.5×10-1 ga.i/m2
薬量(手前)0 1.4×10-3 2.7×10-3 5.4×10-3 1.1×10-2 ga.i/m2 -
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■:抵抗性型固体の発生が確認された場所
○:抵抗性型固体の発生が確認されなかった場所
- Affiliation
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国際農研 生産利用部
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ムダ農業開発庁
マレーシア農業研究開発研究所
- 分類
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行政
- 予算区分
- 国際農業プロ [生物害防除]
- 研究課題
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マレイシアの直播水稲栽培における主要水田雑草の生態解明と制御法の開発
- 研究期間
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平成4~8年
- 研究担当者
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渡辺 寛明 ( 生産利用部 )
ISMAIL Md. Zuki ( ムダ農業開発庁 )
HO Nai Kin ( ムダ農業開発庁 )
- ほか
- 発表論文等
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Watanabe, H. et al. (1994) 2,4-D resistance of Fimbristylis miliacea in direct seeded rice fields in the Muda area. Proceedings of the 4th International Conference on Plant protection the Tropics, 353-356.
- 日本語PDF
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