原虫病に関する牛サイトカイン mRNA の in situ ハイブリダイゼーション法による検出

要約

サイトカインは、免疫系に関与する生理活性物質であり、免疫担当細胞の増殖や分化に関わることで、動物の生体防御反応の中心的役割を果たしている。In situ ハイブリダイゼーション法による牛サイトカインmRNAの検出が可能となった。

背景・ねらい

   サイトカインとは、免疫系、造血系、内分泌系、および神経系に関与する生理活性物質であり、細胞の増殖や分化に関与する。免疫応答に重要な役割を果たしているサイトカイン遺伝子の発現を検出することは、サイトカインを免疫補強剤として利用した組換型ワクチンの開発など、免疫系の制御方法の確立にとって有用である。牛タイレリア症や牛トリパノソーマ症の発病には、TNF‐αのような炎症性サイトカインや、原虫を殺すために有効な細胞性免疫の誘導を抑制するIL‐10が重要な役割を担うと考えられている。ILRIの強い要望により、局所で牛サイトカインmRNAの検出が可能となるin situハイブリダイゼーション法の確立を目指した。

成果の内容・特徴

  1. ジゴキシゲニン標識RNAプローブを用いて、TNF‐α、IFN‐γ、IL‐2、IL‐4、IL‐6、IL‐10、IL‐12p35の各サイトカインmRNAの in situ ハイブリダイゼーション法による検出が、細胞をスライドガラスに張りつけたサイトスピン標本上で可能となった(表1)。
  2. 前処理方法を検討した結果、検出するサイトカインによって最も適切な前処理方法が異なることが明らかとなった(表1)。IL‐4とIL‐12の検出には、トライトンX‐100処理が有効であった。
  3. 牛トリパノソーマ症では、感染後CD5陽性CD11b陽性B細胞の増数と、IL‐10産生の増加がみられる。CD11b陽性B細胞では、IL‐10が検出されたが(図1a)、一方、CD11b陰性B細胞では、IL‐10は検出されなかった(図1b)。牛B細胞のサブポピュレーションによって、サイトカインの産生が異なることが明らかになり、この細胞群が牛トリパノソーマ症の病理発生に関与することが示唆された。
  4. タイレリア・パルバ原虫感染形質転換細胞株7株において、サイトカインmRNAの発現を検索したところ、程度は様々であったが検索した全ての細胞株で、IL‐2とIL‐10が検出された(データ略)。感染細胞の増殖にはIL‐2が、病理発生にはIL‐10が関与することが考えられた。

成果の活用面・留意点

  1. 本研究で得られた in situ ハイブリダイゼーション法による牛サイトカインmRNAの検出は、原虫疾患以外の、他の疾病の免疫応答を解析する上でも、大変有用である。
  2. 上記のサイトカインに加えて、国際家畜研究所(ILRI)で作られた検出用プローブ(TNF‐β、IFN‐α、IL‐1α、IL‐1β、IL‐3、IL‐5、IL‐7、IL‐12p40、IL‐15)を入手したので、今後の利用が望まれる。

具体的データ

  1. 表1 牛mRNAの検出のための in situ ハイブリダイゼーション法における前処理方法の比較

    表1 牛mRNAの検出のための in situ ハイブリダイゼーション法における前処理方法の比較
    * +:陽性-:陰性
  2. 図1a CD11b陽性B細胞にみられたIL-10mRNAの発現
    図1a CD11b陽性B細胞にみられたIL-10mRNAの発現
  3. 図1b CD11b陰性B細胞ではIL-10mRNAの発現がみられない
    図1b CD11b陰性B細胞ではIL-10mRNAの発現がみられない
Affiliation

国際農研 畜産草地部

国際畜産研究所

分類

研究

予算区分
経常
研究課題

ピロプラズマ病のワクチン開発に関する研究 -アフリカ東海岸熱における牛免疫担当細胞の免疫病理学的研究-

研究期間

平成9年度(平成6~9年)

研究担当者

松原 ( 畜産草地部 )

ほか
発表論文等

投稿準備中.

日本語PDF

1997_13_A3_ja.pdf1.21 MB

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