2価鉄による水稲種子籾殻からのエチレン発生の促進
2価鉄は水稲種子の籾殻におけるエチレンの生成を促進する。2価鉄によるエチレンの生成は低酸素濃度下でも行われ、鞘葉の伸長を促進する。
背景・ねらい
イネの種子は、酸素のない湛水土壌中で生長し苗立ちできる嫌気出芽特性を持っている。一般に、鞘葉の伸長は低酸素濃度下でも認められ、それは、種子の発芽と生長に伴って生成される植物ホルモンエチレンによって促進されることが知られている。最近、湛水土壌中に普遍的に存在し、イネの生長に毒作用を持つと考えられていた2価鉄Fe++が、逆に、種子の初期生長を活性化する現象が見いだされ、この機構の解明は直播水稲の苗立ちの安定化技術の開発に寄与すると思われる。
成果の内容・特徴
- 催芽種子を三角フラスコまたはバイアルに入れて密閉し、2mM Fe++を投与したところ、第1日目にエチレンの生成が増大し、鞘葉の伸長が促進された(図1)。しかしエチレンを事前に密閉容器に注入すると、Fe++の鞘葉の伸長に及ぼす効果はなかったことから、Fe++による種子の初期生長の活性化は、エチレンの生成に起因している。
- 種子、籾殻、玄米にFe++を投与すると、種子と籾殻においてエチレンの生成が増大した(図2)。Fe++による鞘葉の伸長促進効果は、籾殻を持たない玄米では小さい。またトリクロル酢酸によって生理反応を停止させても、エチレンは生成されるので、生化学反応ではない。
- 水田におけるFe++濃度は多くの場合1mM以下であるが、籾殻からのエチレン発生の促進は0.02mM以上のFe++濃度で認められ2~200mMで最大であった。Fe++が投与された時、エチレンは最初の3時間までは直線的に生成され、その後平衡化した(図3)。また窒素ガス中でもエチレン生成の促進作用は認められるので、この反応は酸素を必要としない。
- これらの結果は、イネ種子が播種されたとき、湛水土壌中ではFe++の存在ゆえに籾殻からのエチレン生成が促進され、そのエチレンが鞘葉の伸長を促進し、苗立ちを安定化することを示している(図4)。
成果の活用面・留意点
品種特性の評価・利用や土壌管理を通じた苗立ちの安定化技術の開発にあたって基礎的な知見となる。また人工種子の製造や種子コーティング技術の開発に参考になる。
具体的データ
- Affiliation
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中国農業試験場
- 分類
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研究
- 予算区分
- 経常 特別拠出(IRRI)
- 研究課題
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暖地水稲の省農薬・良食味・持続的土壌養分管理技術
熱帯における水稲二期作の安定化技術の開発
- 研究期間
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平成9年度(平成2~9年)
- 研究担当者
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山内 稔 ( 中国農業試験場 )
- ほか
- 発表論文等
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水稲の嫌気条件下での発芽・初期生長の2価鉄による活性化. 土肥講要, 1997.
Relationship between Fe2+‐induced ethylene production from husk and growth of Fe2+‐stimulated rice seedling. Acta Botanica Sinica, 38, 1996.
2価鉄によるイネの発芽・初期生長の活性化の機構. 土肥講要, 1998.
- 日本語PDF
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1997_17_A3_ja.pdf1.24 MB