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国際農林水産業研究成果情報 第5号 【1997(平成9年度)】

水系レベル水資源管理状況把握のための既存潅漑管理データの有効利用法

〔 要約 〕開発途上国の大規模潅漑プロジェクトにおいて、ルーチンに観測されながら活用されていない既存の潅漑管理データを有効利用し、水系レベルの水資源管理状況を把握するための基礎データに加工する簡便法を開発した。
所属 国際農林水産業研究センター・沖縄支所 連絡先 09808-2-2306
推進会
議 名
国際農業 専門 農業工学 対象 水稲 分類 行政

[ 背景・ねらい]

開発途上国と言えども、経済的に開発可能な水資源開発はほぼ終わり、今後の地域開発の最大のボトルネックは、水不足と言われている。アジア・モンスーン地帯など、稲作を農業の中心とする地域では、水田農業自らの近代化に必要となる水資源の確保のみならず、その水系全体の経済・社会開発のためにも、水系レベルの水資源利用の定量的把握を通じ、水資源の一層の合理的利用による水源の捻出が求められている。しかしながら、水系レベルの水資源利用状況の定量的把握は、新たな観測網・観測要員の整備など莫大な投資が必要とされるとして、ほとんど手がつけられていない。

一方、国営クラスの大規模潅漑プロジェクトでは、水管理に関係する気象・水文・潅漑水量の他、潅漑面積・作付け作物・作期スケジュールなどのデータを潅漑システムの流量制御に利用している。しかし、これらの管理データは、水資源管理成績評価の実務には殆ど反映させることなく、無為に退蔵されているのが実状である。そこで、これらの膨大な

管理データの有効利用を図り、水系レベルの水資源管理評価のための簡便法を開発した。


[成果の概要・特徴]
  1. 評価指標の定義
    ・成績指標:計画量に対する実績量の比率で、計画達成の度合いを表す。
    ・影響指標:全体量に対する実績量の比率で、改善対策のインパクトの度合いを表す。
  2. データの定義
    ・1次データ:実際の管理業務において使用されているデータ
    ・2次データ:評価指標を設定する際、1次データだけでは足りない場合、流域レベルの水収支関係を用いて1次データから誘導される二次的データ(表1参照)
  3. 評価指標の算定と成績評価
    評価対象地区・期間に関わる1・2次データにより評価指標を算定し、成績指標から目標達成率を評価し、影響指標から問題点の解明と改善策の見通しを立て、管理成績の改善を図る。(表2参照)

[成果の活用面・留意点]

開発途上国の大規模潅漑プロジェクトで、ルーチンの潅漑管理のために観測されている既存のデータをスプレッドシートで処理するのみで、水系レベルの水資源管理成績を評価できる。管理データの精度の向上が正確な評価の基本である。


[評価指標による水資源管理評価の例]

  1. 成績指標から、第1作において16%、または246mm(WR‐WUF)の用水の不足が指摘される。
  2. 用水不足の要因は、ダム流入量を年間15%(DMRL/DMIN=1.15)過剰に放流しているにもかかわらず、ダム残留域流出量の利用率が30%(RVE/RVIN=0.30)、反復利用潜在可能水量の利用率が12%(IRRC/DR=0.12)と低いことである。
  3. ダム貯水量の年間15%の過剰放流は、10年に1度程度の頻度で貯水量不足による第1作の休閑という事態を実際に引き起こしている。
  4. ダム残留域流出量の利用率が低いのは、潅漑需要の高まる乾季に流量が減り、潅漑需要の低い雨期に流出量が増え、需給のタイミングが合致しないためである。この利用促進には新しいダムの建設によらざるを得ない。
  5. 第1作期間中の反復利用水量の余裕は682mm(DR‐IRRC)あり、246mmの用水不足を賄って余りある。ムダ地区における水不足問題の解決には、反復利用の促進が鍵となる。

[具体的データ]

マレイシア最大の水稲二期作地区、ムダ地区の管理データ(1988年〜1992年)による実証試験の結果は次の様である。

表1 ムダ地区の灌漑管理における1・2次データ (単位:mm/97,000ha)

データ名 略号 第1作 第2作 通年 2次データ誘導式
ダム流入量 DMIN 304 476 780 DMRL+ DMSP+ DMST
ダム貯流量変化量 DMST -232 113 -120 1次データ
ダム無効放流量 DMSP 0 0 0 1次データ
ダム有効放流量 DMRL 536 364 899 1次データ
頭首工地点河川流量 RVT 743 782 1524 RVIN+ DMRL+ DMSP
ダム残流域流出量 RVIN 207 418 625 1次データ
河川流量有効利用量 RVE 56 134 190 @IF(IRIN-DMRL-DMSP>0,IRIN-DMRL-DMSP,0)
河川流量無効流下量 RVI 151 284 435 RVIN- RVE
水田内降水量 RF 1039 833 1872 1次データ
有効利用雨量 RFE 781 553 1334 WUF- IRDL- IRRC
無効雨量 RFI 258 280 537 RF- RFE
灌漑取水量 IRIN 592 498 1090 1次データ
送水損失 IRLS 122 146 268 IRIN- IRDL
灌漑ブロック配水量 IRDL 470 352 822 1次データ
還元利用水量 IRRC 81 59 140 1次データ
計画水田用水量 WR 1577 976 2553 1次データ
水田用水量 WUF 1331 964 2295 1次データ
水田蒸発散量 ET 691 744 1434 1次データ
水田浸透漏水量 SP 641 221 861 WUF- ET
反復利用可能水量 DR 763 366 1129 IRLS+ SP
最終地区外流出水量 DIS 1090 871 1962 DR- IRRC+ RVI+ RFI

表2 評価指標

指標種別 指 標 名 称 算 式 第 1 作 第 2 作 通 年
成績指標 用水充足率 (RFE+IRDL+IRRC)/WR 0.84 0.99 0.90
影響指標 ダム流入量利用率 DMRC/DMIN 1.76 0.76 1.15
影響指標 ダム残流域流出量利用率 RVE/RVIN 0.27 0.32 0.30
影響指標 有効雨量率 RFE/RF 0.75 0.66 0.71
影響指標 送水効率 IRDL/IRIN 0.79 0.71 0.75
影響指標 反復可能水量利用率 IRRC/DR 0.11 0.16 0.12

[その他]
研究課題: 開発途上国における潅漑管理評価手法の開発
予算区分: 経常
研究期間: 平成8〜9年
研究担当者: 八島茂夫
発表論文等: Yashima, S. (1997):Data Systematization for assessing irrigation performance, REE No.32, 42‐62., 八島茂夫(1997):既存情報資源の有効利用による水資源開発・利用の合理化.第5回水資源に関するシンポジウム論文集. 701-706.
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