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国際農林水産業研究成果情報 第8号 【2000(平成12年度)】

プロリン代謝系酵素遺伝子操作による環境ストレス耐性植物の開発

〔 要約 〕シロイヌナズナのプロリン分解酵素遺伝子の発現を抑制すると植物体の耐凍性および耐塩性が向上する。
所属 国際農林水産業研究センター・生物資源部、理化学研究所 連絡先 0298(38)6305
推進会
議 名
国際農業 専門 バイテク 対象 野草類 分類 研究

[ 背景・ねらい]

近年土壌の塩類化、砂漠化等地球規模の環境劣化が深刻化している。また、異常気象は世界各地で農業生産に大被害を及ぼしており、これらの被害は特に開発途上地域で著しい。しかし、乾燥や塩害等の環境劣化に対する耐性作物の分子育種は、その耐性を獲得するための分子機構が複雑なため研究開発が遅れている。本研究では植物の持つ環境耐性機構を分子レベルで明らかにすることを目的とし、環境ストレス耐性に関与すると考えられているプロリンの機能に注目した。


[成果の概要・特徴]
  1. 植物では,プロリンはおもにグルタミン酸から合成される。シロイヌイナズナを用いて、この合成経路でのプロリン生合成の律速段階の反応を触媒する酵素はP5C合成酵素(P5CS)であることを明らかにし、この酵素をコードするAtP5CS遺伝子を単離した。この遺伝子は乾燥誘導性であり、水ストレスを受けるとこの遺伝子の発現レベルが上昇し、細胞内にプロリンが蓄積する(図1)。
  2. アンチセンス法によりこのAtP5CS遺伝子の発現を抑制したシロイヌナズナの遺伝子組換え体は、内生プロリンレベルが野生型に比べて著しく低く顕著な形態異常および乾燥感受性を示す(図2)。
  3. シロイヌナズナにおいて、プロリン分解系の律速段階の酵素はプロリン脱水素酵素(ProDH)である。このProDH酵素をコードするAtProDH遺伝子を単離した。この遺伝子は水ストレスにより発現が抑制され、プロリンや吸水処理により発現が誘導される(図1)。
  4. アンチセンス法によりAtProDH遺伝子の発現を抑制したシロイヌナズナの遺伝子組換え体では、内生プロリンレベルが野生型に比べて高く、高い耐凍性および耐塩性を示す(図3)。
  5. アンチセンスAtProDH遺伝子組換え体では、野生型に比べて塩ストレス処理時のNa+イオンの取り込みが抑制されることから、プロリンが植物体内への塩の流入を防ぐ機能を持つことが示唆される。

[成果の活用面・留意点]
  1. プロリン分解酵素の遺伝子ProDHを用いたアンチセンス遺伝子組換え技術は、乾燥や塩や凍結等の環境ストレスに対する耐性植物の作出に応用できる。
  2. プロリンは種々の植物で機能していることから、この技術は各種の作物に応用可能である。

[具体的データ]

図1 図2 図3


[その他]
研究課題: 乾燥・塩ストレス耐性の分子機構の解明と分子育種への応用
予算区分: 生研機構基礎研究推進事業・経常
研究期間: 平成12年度(8年〜12年度)
研究担当者: 篠崎和子・中島一雄・楠城時彦・篠崎一雄(理化学研究所)
発表論文等: 1) Kiyosue T., Yoshiba Y., Yamaguchi-Shinozaki K., and Shinozaki K.: A nuclear gene encoding mitochondrial proline dehydrogenase, an enzyme involved in proline metabolism, is upregulated by proline but downregulated by dehydration in Arabidopsis. Plant Cell, 8, 1323-1335 (1996).

2) Yoshiba Y., Kiyosue T., Nakashima K., Yamaguchi-Shinozaki K., and Shinozaki K.: Regulation of levels of proline as an osmolyte in Plants under water stress. Plant Cell Physiol., 38, 1095-1102(1997).

3) Nakashima K., Satoh R., Kiyosue T., Yamaguchi-Shinozaki K. and Shinozaki K.: A gene encoding proline dehydrogenase is not only induced by proline and hypo-osmolarity, but is also developmentally regulated in the reproductive organs in Arabidopsis, Plant Physiol. 118, 1233-1241 (1998).

4) Nanjo T., Kobayashi M., Yoshiba Y., Sanada Y., Wada K., Tsukaya H., Kakubari Y., Yamaguchi-Shinozaki K. and Shinozaki K.: Biological functions of proline in morphogenesis and osmotolerance revealed in antisense transgenic Arabidopsis thaliana, Plant J., 18, 185-193 (1999).

5) Yoshiba Y., Nanjo T., Miura S., Yamaguchi-Shinozaki K. and Shinozaki K.: Stress-responsive and developmental regulation of Δ 1-pyrroline-5-carboxylate synthetase 1 (P5CS1) gene expression in Arabidopsis thaliana, Biochem. Biophys. Res. Commun., 261, 766-772 (1999).

6) Nanjo T., Kobayashi M., Yoshiba Y., kakubari Y., Yamaguchi-Shinozaki K. and Shinozaki K.: Antisense suppression of proline degradation improves tolerance to freezing and salinity in Arabidopsis thaliana, FEBS Lett., 461, 205-210 (1999).

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