ガーナの精米業の効率性分析:農家への無利子の融資により籾米を確保する精米業者

国名
ガーナ
要約

ガーナの大型精米機を所有する多くの精米業者が、籾米集荷のために無利子で農家へ融資を行い、その結果、融資のない場合に比べて精米機の稼働率(Capacity Utilization)が24%上昇することを経済モデルにより明らかにした。これは農家に資金需要がある限り望ましいことであるが、同時に金融市場の不完全性を意味する。市場の効率性確保のために籾米の貯蔵施設等の整備が望まれる。

背景・ねらい

   ガーナでは近年コメの消費量の増加が著しい。これは食生活の近代化により、フーフーなどの伝統食から、調理に時間のかからないピラフなどを消費者が好むようになったためである。このような食生活の変化を反映して、一人当たりコメ消費量は、1980年代10年間において年間平均7.3Kgであったが、1990年代においては13.2Kg に増加した。このような急激なコメ消費の拡大は、コメ生産の拡大を導いたが、国内生産の増加が消費の増加に追いつかず、不足した供給量を輸入量の増加で賄うこととなった。その結果、1980年代での年間平均コメ輸入量は籾ベースで8 万9 千トンであったが、1990年代には20万5千トンへ大きく膨らんだ。さらに近年の輸入量増加は著しく、2001年では57万6千トンとなっている。

   ガーナでの顕著なコメ輸入は、コメ生産拡大の遅れがその一因であるが、生産拡大を阻害する大きな要因として、低迷する生産者価格が上げられる。生産された籾米は精米の後に小売業者へ売られるが、もしこの精米プロセスの技術が輸出国のそれよりも劣るならば、精米の品質が輸入米よりも低くなる。また、精米所の経済的な効率が低いならば精米に要する費用が高くなり、国産米に価格面での競争力が備わらないことになる。このように精米業はコメの価格形成の大きな一翼を担っている。

   精米業の稼働率を基準とする効率性を検討するために、内陸に位置するクマシ市周辺においてランダムに選択された61の精米業者を対象に、精米所所有者の属性や労働時間、賃金、精米手数料、精米処理量などを2002年に調査し、経済的に最適な基準に基づく稼働率の計算を行った。

成果の内容・特徴

  1. 大型の精米機を所有する精米業者の多くが、農家へ籾米の搬入を条件に無利子で融資を行っていることを調査により見出した。
    精米業者は、日本製や中国製の大型(縦型)精米機を用いる業者と、国産あるいはインド産の小型(エンゲルバーグ型)精米機を用いる業者に二分される。調査により、この大型精米機を所有する精米業者の多くが、籾米の搬入を条件に農家へ無利子で融資を行っていることを見出した。
    このような親しい経済主体間の信用に関する取引をインターリンケージと呼び、市場の発展していない途上国において商人と農民の間によく見られる。この場合、商人は事前に取り決められた割引価格で作物の売り渡しを農民に約束させ、その代わりに融資を行う。このときの利子率は100%を越える高い値に相当するが、ここでの精米業者と農民の関係は、その精米所に農民が籾米を運ぶだけで他になにも強制力はなく、また無利子である。
    表1は、農家への融資の有無と利潤などの経済変数の平均値を示している。平均値を比較すると、農家へ融資を行っている精米業者は、可変利潤(機械購入費などの固定費を除いて計算した利潤)、精米生産量が大きく、労働時間が長いと言える。
  2. 最適な生産量を基準とする指標を用いて稼働率の計算を行い、政策的インプリケーションを導いた。
    農家に融資を行った結果、精米業者が効率的な生産ができることの証明を研究目的としたが、逆にもともと効率の高い経営を行っている精米業者が農家に融資を行っている可能性がある。これを自己選択バイアスというが、この問題を回避するようなモデルを利用した。なお、このモデルを計測する際に、短期費用関数を基準化二次形式に特定化した。この関数型は多くの利点を有するものであり、自己選択バイアスを回避するモデルとの組み合わせは他に例がない。さらに得られたパラメータを用いて、利潤を最大化する最適値を実現する機械の投入を基準とする稼働率(Capacity Utilization)を計算した。表2 に示すように、農家に融資を行って籾米の集荷を図った場合、稼働率は24%上昇する。
    今後、精米業者大規模化の進展が見込まれるが、その能力を使い切れない場合、非効率となる可能性がある。稼働率向上のために精米業者が農家に融資を行うことは、農家に資金需要がある限り望ましいことであるが、同時に金融市場の不完全性を意味する。稼働率の季節変動を軽減するために籾米を貯蔵する施設や、精米所における籾米需要に関する情報を迅速に伝えるシステムなどの整備が望まれる。

成果の活用面・留意点

   ガーナは西アフリカ地域の他国と比べて道路等のインフラストラクチャーがよく整備されているところであり、同地域の他国ではコメの流通形態が異なる可能性がある。

具体的データ

  1.  

    表1
  2.  

    表2
Affiliation

国際農研 国際情報部

分類

研究

予算区分
基盤〔西アフリカ米市場〕 法人プロ〔ガーナ稲作〕 国際プロ〔アフリカ稲作〕
研究課題

西アフリカ国産米市場に関する研究

研究期間

2002 年度[基盤](2001 年度[法人プロ]、2000 年度[国際プロ])

研究担当者

古家 ( 国際情報部 )

ほか
発表論文等

Furuya, J. and Sakurai, T. (2003): “Interlinkage in the Rice Market of Ghana : Money-lending Millers Enhance Efficiency”. Contributed paper selected for presentation at the 25th International Conference of Agricultural Economists,
http://www.iaae-agecon.org/conf/durban_papers/papers/088.pdf.

Furuya, J. and Sakurai, T. (2002): “Efficiency Gains by Money Lending: The Case of Rice Millers in Ghana”. Program and abstract of 9th JIRCAS International Symposium pp25.

古家淳「ガーナの精米業とコメの品質」ARDEC, 第28号, pp11-16.

日本語PDF

2003_02_A3_ja.pdf1.18 MB

English PDF

2003_02_A4_en.pdf48.23 KB

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