イネの低分げつ性遺伝子の同定

要約

日本型イネ品種合川1 号および秀峰の低分げつは,単一の同じ優性遺伝子Ltn(t)により支配されており,第8 染色体長椀上のDNA マーカーRM149 とXNpb56 の間に位置している。

背景・ねらい

   国際イネ研究所(IRRI)で開発され,次世代の草型を示すNew Plant Type(NPT) 稲は,その低分げつ性と超穂重型に特徴がある。しかし,登熟や病害抵抗性に問題があり,従来育成されてきたIRRIのエリート品種IR64やIR72より優れた生産性や安定性を確保することが難しかった。そこでIR64やIR72の登熟や生産特性を生かし,かつ低分げつ型の稲を作ることがIRRI内の研究プロジェクトの一貫として望まれた。ここで遺伝子源素材として,日本型品種,合川1号と秀峰の低分げつ性のNTP 育種への利用が考えられた。なお、合川1号と秀峰の低分げつは,単一の優性遺伝子により支配されていることが確認されている。
   本研究では,これら品種の低分げつ性の遺伝様式を明らかにするとともに,その遺伝子を用いIR64やIR72の遺伝的背景をもった同質遺伝子系統を開発し,NPT型の多収性品種の育成・研究に資する。

成果の内容・特徴

  1. 合川1号と秀峰の低分げつ性における対立性検定では,両品種の低分げつ性の遺伝子が同一の遺伝子であることを示した(図1)。
  2. この低分げつ性遺伝子は,第8染色体の長腕上のSSRマーカーRM149 とRFLPマーカーXNpb56の中間に位置する(図1)。
  3. この染色体領域にはこれまで分げつに関する遺伝子の報告がないことから,新規の低分げつ性(Low tiller number)遺伝子として,遺伝子記号Ltn(t)を仮称した。
  4. この遺伝子はイネの形態形成に関する重要な遺伝子であると考えられ,IR64 とIR72 の遺伝的背景を持つ同質遺伝子系統(BC5F4)を育成中である(図2)。

成果の活用面・留意点

  1. 合川1号および秀峰の低分げつ性に関する遺伝様式や遺伝子座情報は,Ltn(t)のDNA マーカーを用いた間接選抜(MAS)法による育種や,遺伝子地図情報に基づいた遺伝子単離(マップベースドクローニング)の研究に利用できる。
  2. Ltn(t)と,マーカーとの距離がまだ遠いので,効率的選抜を進めるためにはさらに近接したマーカーを見つける必要がある。
  3. 育成中の同質遺伝子系統は,イネの草型の制御に関する遺伝的要因を解明やインド型品種育成の育種素材として資することができる。

具体的データ

  1.  

    図1
  2.  

    図2
Affiliation

国際農研 生物資源部

分類

研究

予算区分
拠出金(IRRI- 日本共同研究プロジェクト)
研究課題

稲の環境調和型品種による持続可能な生産技術の開発

研究期間

2003 年度(1999 ~ 2004 年度)

研究担当者

福田 善通 ( 国際稲研究所 )

荒木 悦子 ( 農研機構 近畿中国四国農業研究センター )

加藤 ( 宮崎県総合農業試験場 )

常松 浩史 ( 生物資源部 )

Ebron Leodegario A. ( 国際稲研究所 )

SHEEHY Jhon E. ( 国際稲研究所 )

KHUSH Gurdev G. ( 国際稲研究所 )

ほか
発表論文等

Araki, E., L.A. Ebron, R. P. Cuevas, D. Mercado-Escueta, G.S. Khush, J.E.Sheehy, Kato, H. and Fukuta , Y. (2003): Identification of low tiller gene in rice cultivar Aikawa 1. Breeding Research, Vol.5 Suppl.1, 95.

Araki, E., L.A. Ebron, R.P. Cuevas, D. Mercado-Escueta, G.S. Khush, J. E. Sheehy, Kato, H. and Fukuta, Y. (2003): Genetic analysis of low tillering in Japonica-type rice (Oryza sativa L.) cultivar Aikawa 1. The Philippine Journal of Crop Science, Vol.28 (1), 40. Abstract of paper presented at the 17th Scientific Conference, Federation of Crop Science Societies of the Philippines.

R.P. Cuevas, Araki, E., L.A. Ebron, D. Mercado-Escueta, G.S. Khush, J. E. Sheehy, Kato, H. and Fukuta, Y. (2003): Genetic analysis of low tillering in Japonica-type rice (Oryza sativa L.) cultivar Shuho. The Philippine Journal of Crop Science, Vol.28 (1), 40. Abstract of paper presented at the 17th Scientific Conference, Federation of Crop Science Societies of the Philippines.

日本語PDF

2003_09_A3_ja.pdf2.44 MB

English PDF

2003_09_A4_en.pdf68.32 KB

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