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国際農林水産業研究成果情報 第12号 【2004(平成16年度)】

めん物性に関与するグルテニン蛋白質遺伝子Glu-D1fのアジアにおける地理的分布と日本への小麦伝播経路

〔 要約 〕良いめん物性に関与するグルテニン蛋白質遺伝子Glu-D1fのアジア地域における地理的分布から、日本への伝播経路は、中国からの直接伝播ルート(めんロード)と朝鮮半島経由の2つの伝播ルートが考えられた。
所属 国際農林水産業研究センター・食料利用部 連絡先 029(838)6358
推進会
議 名
国際農林水産業 専門 遺伝資源 対象 小麦 分類 研究

[ 背景・ねらい]

小麦(Triticum aestivumL.)の良いめん物性(軟質で生地物性が弱い)に関与するグルテニン蛋白質遺伝子Glu-D1fは日本品種に高頻度で存在するが、パン文化圏である欧米の小麦品種にはほとんど存在しない(Morgunov et al. 1993, J. Genet. Breed., Nakamura et al. 2001, Cereal Chemistry )。そこで、めん文化圏の小麦品質特性を明らかにすることを目的に、軟質めん用(うどん)のグルテニン蛋白質遺伝子Glu-D1fのアジアにおける地理的分布を調査した。また、小麦はシルクロードを経由して日本へ伝播したがそのルートはいくつかあるといわれており、中でもアフガニスタンから中国の新疆ウイグル自治区を経由(シルクロードの北ルート)して小麦が伝播したとする説が考古学的に有力とみられているが、Glu-D1fの地理的分布から日本への伝播経路についても併せて検討を行った。


[成果の概要・特徴]
  1. アジアの小麦(Triticum aestivumL.)1179品種についてグルテニン蛋白質遺伝子Glu-D1fの有無をSDS−ゲル電気泳動により分析した結果、日本以外では、アフガニスタン、中国および朝鮮半島の小麦品種のみに存在が認められ、その頻度は各々9.5%、1.4%および6.9%であった。低頻度ではあるが、アジアにおけるGlu-D1fの存在を認めた(表1)。さらに、中国の各地域内では、新疆ウイグル自治区で2点、淅江省で1点、南京で1点、北京で1点の各品種にこの遺伝子の存在を認めた(図1)。
  2. アジアにおけるGlu-D1fの地理的分布から、アフガニスタンから中国の新疆ウイグル自治区を経由して(シルクロードの北ルート)南京・淅江省に達し、日本へ伝播したルートと、さらに別ルートとして、同じシルクロードの北ルートを経由してから北京に達し、さらにそこから朝鮮半島を経由して最終的に日本へ伝播した朝鮮半島経由ルートの存在が示唆された(図1)。
  3. 中国から日本への直接伝播ルートは、日本へのめんロード(中国から日本へめんが伝わったルート、 石毛直道著:文化麺類学ことはじめ、フーディアムコミュニケーション社)と一致しており、また、朝 鮮半島経由ルートも、土器などの伝播により考古学的に指摘されていたルートと一致した(藤井純夫 著:ムギとヒツジの考古学、同成社)。

[成果の活用面・留意点]
  1. アジア各国の小麦品種におけるグルテニンGlu-D1f遺伝子の有無および地理的分布から、パン文化圏とめん文化圏(アジア)における品質の違いを説明でき、小麦育種・品質研究のための重要な研究情報としての活用ができる。
  2. めん適性に優れる小麦遺伝資源の母材探索地域の選定時、伝播経路を参考にして中国・新疆地域など良いめん物性に関与するGlu-D1fの存在する地域に絞込むことにより、効率的にグルテニン遺伝子や良い品質特性の探索・導入を図れる。

[具体的データ]


[その他]
研究課題:
穀物蛋白質の品質評価
予算区分: 基 盤(穀物蛋白質評価)
研究期間:
2002〜2004年度(2002〜2005年度)
研究担当者:
中村 洋
発表論文等:
1) Hiro NAKAMURA (2002):Frequency of the high-molecular-weight glutenin allele in Asian hexaploid wheat (Triticum aestivumL.) and the transmission route through which the wheat may have reached Japan, the most geographically remote region of wheat production in the world. J. Agric. Food. Chem., 50 (23),6891-6894.
2) Hiro NAKAMURA (2002):The geographical diversity of the frequency of the Glu-D1fallele in Asian common wheat, and the transmission route through which the wheat may have reached Japan. Aust.J.Agric.Res., 53 (11), 1265-1269.
3) 中村 洋 (2003):日本への小麦伝播経路の解明。農業および園芸、78 (3)、347-350。
4) Hiro NAKAMURA (2004):Specific glutenin allele frequencies of Japanese common wheat cultivars compared with the worldwide distribution of Glu-1alleles.Annual Wheat News Letter, 50, 76-79.

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