イネの鉄過剰耐性・亜鉛欠乏耐性の簡易検定法

要約

通常の水耕液に低濃度の寒天を添加することにより、急激なpH変化を抑制し、酸化還元電位の低下も再現でき、鉄過剰、あるいは亜鉛欠乏などの問題土壌に対するイネ品種簡易耐性検定における精度を向上することができる。

背景・ねらい

水耕液を用いて問題土壌で起こりうる鉄毒性あるいは亜鉛欠乏などの養分ストレスに対するイネの反応を再現することは困難である。一般的な養液を用いた水耕条件では、根圏の理化学性の変化が維持できずpHが急激に変化し、さらに、鉄やリンなどが沈殿を形成し不可給態となるためである。また、水田土壌での微量要素害の発現で重要となる低い酸化還元電位を水耕栽培で再現することも困難である。このような背景から、鉄毒性、および亜鉛欠乏を水耕栽培条件でイネの品種を評価できる系を構築するため、低濃度寒天(0.1%)の利用を検討した。

成果の内容・特徴

  1. 鉄毒性の評価に用いる鉄濃度(200 ppm)、亜鉛欠乏の亜鉛濃度 (1 nM)を、それぞれ含むYoshidaの培地 (1976)に0.1%の寒天を添加した場合、鉄過剰、亜鉛欠乏の症状を再現できる。
  2. 低濃度寒天培地においては、FeSO4として供給した鉄は寒天中に溶解し根圏にとどまり、通常の養液に必要な濃度300mMより低い200mMの濃度で鉄過剰症を再現させることができる。
  3. 低濃度の寒天の使用により、養液中のpHの変化はゆるやかとなり、(図1-A)低pHによる毒性を回避するためのpH調整が不要となり、根圏の状態を維持することができる。
  4. 寒天の添加によって溶液の流動性が低下し、液表面からの酸素の拡散が抑制される。酸化還元電位の低下は速やかであり、処理開始後4-5日で、水田においての電位と同様な負の値となる。デンプンや糖などを添加することにより、酸化還元電位をさらに低下させることが可能である(図1-B)。
  5. この培地を使用した場合、品種間の明瞭な差が根表面において観察される(図2)。これは、寒天の使用により根からの有機酸などの溢泌物が根表面に留まることができるためと考えられる。
  6. 亜鉛欠乏耐性の品種間差異は、寒天を添加した場合にはそれぞれの問題土壌を含む圃場で評価した結果と同様である(図3)。寒天を添加しない水耕養液においては、圃場における評価と一致しない結果がみられる。

成果の活用面・留意点

鉄過剰、あるいは亜鉛欠乏に関して、イネの品種間差異を明瞭に検出できる簡易評価検定法として、遺伝資源の選抜や遺伝子分析に利用することができる。

具体的データ

  1.  

    図1 養液中のpH(A) と酸化還元電位(B)の経時的変化
    図1 養液中のpH(A) と酸化還元電位(B)の経時的変化
  2.  

    図2 寒天添加培地における鉄過剰 (a)、亜鉛欠乏 (b) 耐性の検定
    図2 寒天添加培地における鉄過剰 (a)、亜鉛欠乏 (b) 耐性の検定
    a 鉄過剰感受性品種IR64(左側、黒色)
    耐性品種 IR 24637 (右側)
    b 亜鉛欠乏耐性品種 IR 74(白色)
    感受性品種 RIL 46(黒色)
  3.  

    図3
    図3亜鉛欠乏耐性系統(RIL46 と RIL507)と感受性品種(IR74とRIL597)の低濃度寒天添加養液、一般養液、および圃場条件での乾物重とブロンジングスコアの比較
Affiliation

国際農研 生産環境領域

分類

研究

予算区分
交付金〔不良環境耐性〕
研究課題

不良環境耐性作物開発

研究期間

2006年度(2006~2010年度)

研究担当者

WISSUWA Matthias ( 生産環境領域 )

WANG Yunxia ( 生産環境領域 )

ほか
発表論文等

Wissuwa, M, U Hausermann, RK Singh and AM Ismail (2006) Genotypic differences for tolerance to iron toxicity in rice. 13th international symposium on iron nutrition and interactions in plants. p. 124.

日本語PDF

2006_seikajouhou_A4_ja_Part6.pdf758.22 KB

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