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国際農林水産業研究成果情報 第14号 【2006(平成18年度)】

バナメイエビの成熟抑制ホルモンの発見(PDF197KB)

〔 要約 〕 眼柄切除によらない新しい人為催熟技術開発のため、卵巣培養系を用いた生物活性測定法により、バナメイエビ眼柄内の卵黄形成抑制ホルモン(vitellogenesis-inhibiting hormone : VIH)を探索した結果、VIHの単離に成功した。この成果は、エビ類成熟機構の解明に大きく貢献し、人為催熟技術開発に道を拓くものとして期待される。
所属 国際農林水産業研究センター・水産領域 連絡先 029 (838) 6630
専門
増養殖技術
対象
他のえび類
分類
研究

[背景・ねらい]

エビ類の需要は、日本、米国が最大の輸入国として国際的に高まり、東南アジアを中心に、主に海産エビを用いた養殖生産が急激な発展を遂げてきている。現行では、稚エビから出荷サイズまでの育成方法は確立されてはいるが、安定的な稚エビを得るための成熟した親エビの育成技術は未確立である。そのため、技術全体としては非効率であり、成熟親エビの育成は持続的な養殖技術の開発に対するボトルネックとなっている。この解決策として、エビの成熟を制御するホルモンの利用による、効率的な人為催熟技術の開発を目指している。研究対象にしたエビは、最近東南アジアで盛んに養殖が行われているバナメイ種を用いた。


[成果の概要・特徴]
  1. エビ類は眼柄切除により卵黄形成が誘導されることから、眼柄内に卵黄形成抑制ホルモン(vitellogenesis-inhibiting hormone : VIH)が含まれていると考えられている。しかし、その存在および作用機構は不明である。甲殻類においては、アメリカンロブスター、オカダンゴムシ、クルマエビからVIHが単離・同定されている。それら3種類のVIHは分子量が約10 kDaのペプチドで、甲殻類血糖上昇ホルモン (crustacean hyperglycemic hormone: CHH) 族のメンバーであるので、バナメイにおいてもCHH族ペプチドのいずれかがVIHである可能性が高い。以上から、バナメイ種のCHHの貯蔵器官として知られている眼柄内に存在するサイナス腺から7種類のcrustacean hyperglycemic hormone (CHH)族ペプチドを単離した(図1)。
  2. 1.で単離したCHH族ペプチドのVIH活性を検討するために、エビ卵巣を用いた簡易なVIH生物活性測定方法を開発した。
  3. 2.のVIH生物活性測定方法を用いて、7種類のCHH族ペプチのVIH活性を測定した。その結果、6種類にVIH活性があったので、この6種類をVIHと同定した(図2)。
  4. VIH活性の力価が一番強いペプチドの構造を決定した。

[成果の活用面・留意点]
  1. バナメイ体内に存在する内在性のVIHを抑制すれば、成熟が促進される。
  2. VIH分泌を促す環境要因が明らかになれば、その要因の制御で人為催熟が可能になる。
  3. 本成果を元に人為催熟技術が確立すれば、エビ類種苗生産の安定化に大きく貢献する。

[具体的データ]

図1 バナメイのCHH族ペプチドの単離

図1 バナメイのCHH族ペプチドの単離

バナメイのサイナス腺を顕微鏡下で約1,300個摘出し、抽出後、逆相のHPLCを用いて分画し、7種類のCHH族ペプチド(A、B、C、D、E、F、G)を同定した。

 

図2バナメイのCHH族ペプチドの卵黄形成抑制活性

図2バナメイのCHH族ペプチドの卵黄形成抑制活性

VIH活性は、7種類のペプチドを単独でクルマエビの卵巣片培養液に加え、培養し、卵巣中の卵黄タンパク質遺伝子の発現が有意に抑制されるかを調べる方法である。その結果、6種類(A、B、C、E、F、G)のペプチドが濃度依存的に卵黄タンパク質遺伝子の発現を抑制した。


[その他]
研究課題: 生殖機構解明によるエビ類の人為的成熟制御技術の確立と種苗生産の安定化
中課題番号: A-1)-(7)
予算区分 交付金〔エビ成熟〕
研究期間: 2006年度(2006〜2010年度)
研究担当者: Marcy Nicole Wilder、大平剛、筒井直昭、川添一郎
発表論文等:
  1. Tsutsui, N., Katayama, H., Ohira, T., Nagasawa, H., Wilder, M.N. and Aida, K. (2005). The effects of crustacean hyperglycemic hormone-family peptides on vitellogenin gene expression in the kuruma prawn, Marsupenaeus japonicus. General and Comparative Endocrinology, 144: 232-239.
  2. Ohira, T., Okumura, T., Suzuki, M., Yajima, Y., Tsutsui, N., Wilder, M.N. and Nagasawa, H. (2006). Production and characterization of recombinant vitellogenesis-inhibiting hormone from the American lobster Homarus amaricanus. Peptides, 27: 1251-1258
  3. Ohira, T., Tsutsui, N., Nagasawa, H. and Wilder, M.N. (2006). Preparation of two recombinant crustacean hyperglycemic hormone isoforms from the giant freshwater prawn Macrobrachium rosenbergii and their biological activities. Zoological Science, 23: 383-391.
  4. Tsutsui, N., Ohira, T., Kawazoe, I., Takahashi, A. and Wilder, M.N. (2007). Purification of sinus gland peptides having vitellogenesis-inhibiting activity from the whiteleg shrimp Litopenaeus vannamei. Marine Biotechnology (In press)

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