TOP >アーカイブス(刊行物:国際農林水産業研究成果情報第15号)

国際農林水産業研究成果情報 第15号 【2007(平成19年度)】

植物の乾燥や塩害等による浸透圧ストレスのセンサー遺伝子の発見(PDF356KB)

〔 要約 〕シロイヌナズナのゲノムに存在する11個のヒスチジンキナーゼの機能を解析し、このうちのAHK1遺伝子が、植物の乾燥や塩害等による浸透圧ストレスを受容して、耐性の獲得に働く遺伝子群を制御する受容体の遺伝子であることを示した。このAHK1遺伝子を植物中で高発現すると、多くの耐性遺伝子が高発現して植物の乾燥ストレス耐性が向上することを明らかにした。
所属 国際農林水産業研究センター・生物資源領域 連絡先 029 (838) 6305
専門
バイテク
対象
アブラナ科植物
分類
研究

[背景・ねらい]

世界的規模の環境劣化が問題になっており、環境ストレス耐性植物の開発は重要な課題となっている。植物は劣悪な環境になると、多数の耐性遺伝子群を働かせることにより耐性を獲得して適応している。これらの環境ストレス耐性の獲得機構で働く制御遺伝子は、多数の耐性遺伝子の働きを調節しているため高い耐性を植物に付与すると考えられる。浸透圧ストレスの受容体遺伝子に関しては酵母の系を用いた研究が進んでおり、膜結合型のヒスチジンキナーゼSLN1が浸透圧応答性受容体として働いていることが示されている。シロイヌナズナにも、11種のヒスチジンキナーゼ遺伝子が存在し、植物ホルモンの受容に関与している遺伝子が示されているが、浸透圧ストレスの受容体は明らかにされていなかった。本研究では植物の浸透圧ストレスの受容体遺伝子を明らかにして、環境ストレス耐性作物の分子育種への応用のための基礎データを得ることを目的としている。


[成果の概要・特徴]
  1. シロイヌナズナの11種のヒスチジンキナーゼ遺伝子を酵母のsln1 sho1欠損変異株に導入すると、グルコース培地またはこれに0.3MNaClを加えた培地中でAHK1, AHK2, AHK3, AHK4, CKI1, CKI2遺伝子を導入した場合に生育が可能になり、これらの6種の遺伝子は酵母中で浸透圧ストレスの受容体として機能すると考えられた。
  2. ノーザン法を用いて、酵母中で浸透圧ストレスの受容体として機能する6種のヒスチジンキナーゼ遺伝子中、AHK1, AHK2, AHK3, AHK4遺伝子は乾燥や塩ストレス時に根や葉等の植物体中で強く発現していることを示した。
  3. 酵母中で浸透圧受容体として働くことや乾燥や塩ストレス時に植物体で遺伝子発現が観察されたAHK1, AHK2, AHK3, AHK4遺伝子が変異したシロイヌナズナを用いて、乾燥や塩ストレスに対する耐性を解析した。ahk1変異体は野生株に比較して、乾燥と塩ストレスに対して生存率が減少しており、ストレス耐性が低下していることが示された。一方、AHK2またはAHK3が破壊された変異体では反対に乾燥や塩ストレスに対し強くなっていた。また、AHK2AHK3の両方が壊れた二重変異体ではさらに耐性が強くなっていたが、生長に遅れが見られた(図1)。AHK4が破壊された変異体は変化を示さなかった。
  4. マイクロアレイ解析により、ahk1変異体では多数のストレス耐性遺伝子の発現が抑えられていることが明らかになった。一方、ahk2 ahk3二重変異体では多くのストレス耐性遺伝子の発現が上昇していた。変異体の解析結果からAHK1,AHK2, AHK3遺伝子はともに乾燥や塩害等による浸透圧ストレス応答に関与するが、AHK1はポジティブに働き、AHK3はネガティプに働くと考えられた。
  5. AHK1遺伝子をシロイヌナズナ中で強く働くように改変すると、ストレスが無い状態では改変していない対照(野生株)の植物と同様に生育した。さらに、乾燥時には高いレベルの耐性を示した(図2)。
[成果の活用面・留意点]
  • イネやコムギやトウモロコシの他、開発途上地域の作物等に本遺伝子を導入して、干ばつや塩害に強い作物の開発を目指す。

[具体的データ]

図1 ahk2 ahk3二重変異株の乾燥ストレス耐性(左)と塩ストレス耐性(右)
AHK2とAHK3遺伝子が破壊された植物は乾燥や塩に対して耐性を示したが、生長に遅れが見られた。

図1 ahk2 ahk3二重変異株の乾燥ストレス耐性(左)と塩ストレス耐性(右)
AHK2AHK3遺伝子が破壊された植物は乾燥や塩に対して耐性を示したが、生長に遅れが見られた。

図2 AHK1を過剰発現させたシロイヌナズナの乾燥ストレス耐性
AHK1遺伝子が強く働く植物では、ストレスが無い状態では野生株(対照)と同様に生育した。乾燥ストレスに対しては高い耐性を示した。

図2 AHK1を過剰発現させたシロイヌナズナの乾燥ストレス耐性
AHK1遺伝子が強く働く植物では、ストレスが無い状態では野生株(対照)と同様に生育した。乾燥ストレスに対しては高い耐性を示した。


[その他]

研究課題: 植物の環境ストレス耐性機構の解明と耐性作物の開発
中課題番号: A-1)-(1)
予算区分: 交付金〔ストレス耐性機構〕等
研究期間:
2007年度(2004〜2011年度)
研究担当者:
Lam-Son Phan Tran・秦峰・圓山恭之進・篠崎和子
発表論文等:  
  1. Tran, L.-S. P., Urao, T., Qin, F., Maruyama, K., Kakimoto, T., Shinozaki, K., and Yamaguchi-Shinozaki, K. (2007) Functional analysis of AHK1/ATHK1 and cytokinin receptor histidine kinases in response to abscisic acid, drought and salt stresses in Arabidopsis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 104,20623-20628. 
  2. Shinozaki, K. and Yamaguchi-Shinozaki, K. (2007) Gene networks involved in drought stress response and tolerance. J. Exp Bot. 58, 221-227.

前のページ

次のページ