低投資・環境共生型ウシエビ・海藻混合養殖技術の開発

国名
タイ
要約

東南アジア諸国に多い小規模・零細エビ養殖業者も適用可能な低投資環境負荷の少ない安定したウシエビ養殖技術の開発を目指し、数種の海藻類との混合養殖実験を行った。シオグサ科植物およびクビレズタとの混合養殖は、エビの投餌量や養殖池環境維持費の削減を可能にし、従来の養殖法よりも生産効率を向上させた。

背景・ねらい

東南アジアにおける汽水産エビ養殖は経済上非常に重要な位置を占めている。しかし近年、東南アジアにおける多くの汽水産エビ類の集約的養殖は、微生物やウィルスによる病気の発生や成長率の悪化に直面している。一方、マングローブ林をできる限り残した状態で利用する伝統的な粗放的養殖では、広大な敷地を必要とし生産性は低いものの、疾病はほとんど見られない。
本課題は、自然環境を維持しつつ低投資かつ持続的な汽水産エビ養殖技術を開発することを目的にしている。病気に罹患しにくい健康なウシエビ(Penaeus monodon)を集約的に生産するために、現在主流であるエビ単一の集約的養殖池の中に海藻類を生育させ、自然に近い環境を作り出す。海藻類にはウシエビの餌となる種および隠れ家となる種を選択する。このように機能の異なる海藻をエビと共に養殖することによって、水を浄化しながら、ウシエビの耐病性強化およびストレス軽減をはかる。

成果の内容・特徴

  1. ウシエビの生理的特徴として水温、塩分の適応範囲が約10-40°C、0-50pptと広い。シオグサ科植物2種(ナガモツレ: /Rhizoclonium tortuosum/および シオグサ属の一種: /Cladophora/ sp.)は広塩性で7-75pptまで生育が可能であり、塩分変動の激しい汽水産エビ養殖池に適している。一方、クビレズ タ(/Caulerpa lentillifera/)は18-38pptにおいて生育可能で、乾季の沿岸部における汽水産エビ養殖池に適応可能である(図1)。シオグサ科植物2種およびクビレズタはともに水温20-30°Cで生育が良好であり、エビ養殖池に適用できる。
  2. 2Lガラス水槽でウシエビを海藻類と混合養殖すると、養殖水中のアンモニア態窒素が顕著に減少する。そのため、水交換をしなくとも溶存無機態窒素濃度を低く保つことができる(図2)。
  3. ウシエビは対照区および海藻混合区ともに人工餌料を充分与えられているにも関わらず、海藻類を積極的に摂餌する。特にナガモツレはウシエビの成長を促 進する(図3)。
  4. クビレズタはウシエビには摂食されにくいが、成長したエビの脱皮時等の隠れ家として利用される。海藻内の水温は海藻外と比較して日較差が1°Cほど小さく、安定している。
  5. 通常100%の死亡率を示すイエローヘッドウィルス病感染後も、海藻との混合養殖では約10%が生存し、平均約30gのウシエビが養殖開始5ヵ月後 の収穫時には平均約50gと成長する。海藻摂食によってあるいは海藻による環境の安定化によってウシエビ免疫系が亢進し、生残すると考えられる。
  6. 本技術の実証試験によると、従来の単一養殖法と同等の収量が得られるにも関わらず、投餌量が抑えられるため、増肉係数が低くなる。また、海藻により水質が安定するため、大型曝気装置や水交換のような池環境維持のための電気代等のコストが抑えられ、生産効率が向上する(表1)。

成果の活用面・留意点

  1. 一つの池で実施可能で広い土地を必要としないため、零細養殖業者にも適用が可能であり、各地で蔓延しているウィルス病被害も軽減できる。
  2. 気候の異なる地域での実証試験を行い、地域毎に適切な海藻類を選択する必要がある。
  3. 混合養殖に利用した海藻も収穫して有効利用するには、加工・流通に関しての研究が今後必要となる。

具体的データ

  1.  

    図1 各塩分におけるシオグサ科の一種およびクビレズタの日間成長率
    図1 各塩分におけるシオグサ科の一種およびクビレズタの日間成長率
  2.  

    図2 ウシエビ海藻混合養殖による総無機態窒素量の変化
    図2 ウシエビ海藻混合養殖による総無機態窒素量の変化
  3.  

    図3 各海藻との混合養殖におけるウシエビの日間成長率(n=5)
    図3 各海藻との混合養殖におけるウシエビの日間成長率(n=5)
    対照区:ウシエビ1尾のみ
    試験区:ウシエビ1尾および各海藻種1.5g
    両区とも毎日水交換を行った
  4. 表1 実証池を用いた養殖実験結果

    表1 実証池を用いた養殖実験結果
Affiliation

国際農研 水産領域

予算区分
交付金〔水産養殖〕
研究課題

環境に配慮した持続的生産のための複合養殖システムの開発

研究期間

2007年度(2006~2010年度)

研究担当者

浜野 かおる ( 水産領域 )

筒井 ( 水産領域 )

科研費研究者番号: 80425529

SRISAPOOME Prapansak ( カセサート大学 )

Aue-umneoy Dusit ( キングモンクット工科大学ラカバン )

ほか
発表論文等

Hamano, K., Aue-Umnuoy, D., Srisapoome, P. and Tsutsui, I. (2007): Profitable environmental remediation with seaweeds in an intensive marine shrimp sulture. Abstract of XIXth International Seaweed Symposium, 155

Tsutsui, I., Aue-Umnuoy, D., Srisapoome, P. and Hamano, K. (2007): Possible implications on the co-cultivation on black tiger shrimp and clasophoraceae species on a southeast asian shrimp farm. Abstract of XIXth International Seaweed Symposium, 77

日本語PDF

2007_seikajouhou_A4_ja_Part19.pdf544.92 KB

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