西アフリカ・サヘル地域における風食抑制と収量増加を可能にする新たな省力的砂漠化対処技術「耕地内休閑システム」

要約

サヘル地域における省力的砂漠化対処技術耕地内休閑システム」を開発し、その有用性を実証した。本技術により、砂漠化の主要因である風食の大幅な抑制とトウジンビエの増収を達成できる。

背景・ねらい

西アフリカ・サヘル地域では、食糧不足が慢性化しており、加えて風食(風によって比較的肥沃な表層土が飛散し、土壌肥沃度が低下する現象)による砂漠化が進行している。しかし、現地の農民が実施できる有効な対処技術はなく、風食の被害は軽減できていない。我々は、これまでの研究で、1)風食の際に多量の土壌養分が飛散すること、2)飛散した土壌養分は風下の5 m以上の幅の草本休閑地でほとんどが捕捉されることを明らかにした。これらの結果をもとに、サヘル地域の農民が実施できる風食抑制と作物収量の増加を目指す新たな省力的砂漠化対処技術「耕地内休閑システム」を提案する。

成果の内容・特徴

  1. 「耕地内休閑システム」の概要を以下に示す。
    1. 耕地内に風食を引き起こす砂嵐の風向(東風)に対して垂直に幅5 mの帯状の休閑帯を複数作る。休閑帯は播種と除草を行わないことで形成される草本植生で、農民に新たな経済負担と労働負担をかけない。
    2. 休閑帯は作物の収穫が終わった後の乾季に多量の養分を含む風成物質(風によって運ばれる土壌粒子と植物残渣などの粗大な有機物)を効率よく捕捉する。
    3. 次の雨季に休閑帯を風上に移動させ、前年に休閑帯であった場所は耕作を行う。
    4. d. bとcを繰り返す。なお、本地域では経済的な理由から一般に施肥は行われない。​​​
      fig.1
  2.  一本の休閑帯の風食抑制割合(飛散して来た土壌の捕捉割合)は74%である。
  3.  休閑帯の間隔が広いほど、翌年その場所を耕作した場合にトウジンビエの収量は増加する(図1)。
  4.  休閑明け1年目と休閑明け2年目の区画で作物収量に有意な差は認められず、休閑帯の増収効果は少なくとも2年間は持続する(図2)。
  5.  2~4の結果に基づき、また休閑明け3年目以降は増収効果がないと仮定して、耕地内休閑システムの圃場全体での増収効果と風食抑制効果をシミュレーションした結果、休閑帯を最適な間隔に設けると、圃場全面を耕作する場合に比べて収量は36~81%増加し(図3)、風食も52~80%抑制されると推測される(図4)。

成果の活用面・留意点

  1. 家畜の摂食により休閑帯の植生が全て失われると、システムの効果は期待できない。なお、本調査地域は放牧圧が比較的高いが、休閑帯の植生が全て失われることはなかった。

具体的データ

  1.  

    図1.休閑帯の間隔が異なる圃場において休閑帯を翌年耕作した区(休閑帯)と連続耕作区(耕作帯)でのトウジンビエの収量
    図1.休閑帯の間隔が異なる圃場において休閑帯を翌年耕作した区(休閑帯)と連続耕作区(耕作帯)でのトウジンビエの収量
  2.  

    図2.休閑帯の間隔が異なる各圃場において休閑明け1年目と2年目の休閑帯で耕作したトウジンビエの収量
    図2.休閑帯の間隔が異なる各圃場において休閑明け1年目と2年目の休閑帯で耕作したトウジンビエの収量
  3.  

    図3.風食を起こす砂嵐の方向(東西方向)の距離が異なる圃場における休閑帯の間隔と圃場全体での収量増加割合の関係
    図3.風食を起こす砂嵐の方向(東西方向)の距離が異なる圃場における休閑帯の間隔と圃場全体での収量増加割合の関係(の間隔の時に収量増加割合は最大になる).
  4.  

    図4.風食を起こす砂嵐の方向
    図4.風食を起こす砂嵐の方向(東西方向)の距離が異なる圃場における増収に最適な休閑帯の間隔での風食抑制割合.
Affiliation

国際農研 生産環境領域

京都大学

予算区分
交付金〔アフリカ土壌〕
研究課題

西アフリカの半乾燥熱帯砂質土壌の肥沃度の改善

研究期間

2006~2008年度

研究担当者

伊ヶ崎 健大 ( 京都大学 )

科研費研究者番号: 70582021

真常 仁志 ( 京都大学 )

科研費研究者番号: 70359826

田中 ( 京都大学 )

科研費研究者番号: 10231408

飛田 ( 生産環境領域 )

ほか
発表論文等

伊ヶ崎健大・真常仁志・田中 樹・飛田 哲・小﨑 隆 (2008) 西アフリカ・サヘル地域における風食抑制と収量増加を目指す新たな砂漠化対処技術の提案.熱帯農業研究1(Extra issue),41-42.

Ikazaki, K. Shinjo, H., Tanaka, U., Tobita, S. and Kosaki, T. (2009) Sediment catcher to trap coarse organic matter and soil particles transported by wind. Transactions of the ASABE 52(2). (accepted)

日本語PDF

2008_seikajouhou_A4_ja_Part10.pdf535.27 KB

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