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国際農林水産業研究成果情報 第18号 【2010(平成22年度)】

3種類のAREBはアブシシン酸を介した乾燥耐性を協調的に制御する(PDF251KB)

〔 要約 〕乾燥ストレス時に蓄積するアブシシン酸によって活性化されるAREB型転写因子は、イネなどの陸上植物に広く存在する。シロイヌナズナの3種類のAREB型転写因子は、重複した機能を保持しながら、固有の役割も担っており、アブシシン酸を介した乾燥耐性能を協調的に制御する。
キーワード 干ばつ、転写因子、アブシシン酸、乾燥耐性、遺伝子発現
所属 国際農林水産業研究センター 生物資源領域 分類
研究A

[背景・ねらい]

干ばつは、特に開発途上地域において農作物に甚大な被害を及ぼし続けており、乾燥耐性作物の開発は危急の課題である。乾燥ストレスによって植物細胞内のアブシジン酸(ABA)濃度が上昇し、これが引き金になって乾燥耐性関連遺伝子の発現が活性化され、植物は乾燥耐性能を獲得すると考えられている。本研究では、シロイヌナズナやイネを用いた分子レベルでの解析を通じて、それぞれの種で複数存在しているAREB型転写因子がABAを介した乾燥耐性能を制御する機構を明らかにし、開発途上地域における乾燥耐性作物の作出に必要な技術的基盤を確立する。


[成果の内容・特徴]
  1. AREB型転写因子の網羅的な系統解析の結果は、AREB型転写因子がシロイヌナズナやイネ、ダイズなどにとどまらず、コケ類やシダ類を含めた陸上植物に広く存在していることを示す。
  2. シロイヌナズナの3種類のAREB型転写因子が「シグナル制御遺伝子群」や細胞の保護に関わるLEAタンパク質遺伝子などの「機能遺伝子群」の発現をコントロールすることにより、乾燥耐性に関わる能力を協調的に制御する(図1、2)。
  3. 3種類のAREB型転写因子は、重複した機能を保持しながら、固有の役割も担っている(図2)。AREB1はABAによる転写活性化能の誘導性が高い点、AREB2は塩による遺伝子発現の誘導性が高い点、ABF3はABA非存在下においても比較的高い転写活性化能を示す点がそれぞれの特徴である。
  4. シロイヌナズナ(AREB1、AREB2 およびABF3)と同様、イネでも3種類のAREB型転写因子(OsAREB1、OsAREB2およびOsAREB8)がABAによる乾燥耐性関連遺伝子の転写活性化に関与している。


[成果の活用面・留意点]
  1. AREB型転写因子によって制御されている乾燥耐性機構は、シロイヌナズナのみならずイネやダイズにおいてもきわめてよく保存されており、乾燥耐性作物作出など、応用に際しての汎用性が高い。

  2. 3種類のAREB型転写因子の機能の重複性や特異性を考慮して遺伝子を選択し、プロモーターとの組み合わせを最適化することにより、対象植物や想定される干ばつの度合いに応じてより需要により適合した乾燥耐性作物の作出が可能になる(図2)。

[具体的データ]


図1 AREB型遺伝子欠損シロイヌナズナを用いた乾燥ストレス耐性試験

播種後4週間生育させた後、給水を中止して乾燥ストレスを与えた。11日後に再給水し、1週間後の生存個体数をもとに生存率を算出した。5回の独立した耐性試験(各試験ともn=14)の結果から得た各植物体の生存率についてt検定を行い、野生型植物と各変異体の生存率の差が有意であるかどうかを検討した。アスタリスクは、t検定によりp<0.01であることを示す。写真は、乾燥処理前と再給水後1週間の植物体の様子を示す。


図2 協調的に乾燥耐性能を制御する3種類のAREB型転写因子を
利用した乾燥耐性作物開発のモデル図

3種類のAREB型転写因子は、乾燥耐性に関わる能力を協調的に制御している。
各転写因子は、重複した機能を保持しながら、固有の役割も担っている。


[その他]
研究課題: 植物の環境ストレス耐性機構の解明と耐性作物の開発
中課題番号: A-1)-(1)
予算区分: 運営費交付金[ストレス耐性機構]、受託[農水省]等
研究期間:
2006〜2010年度
研究担当者:
吉田拓也・藤田泰成・篠崎和子
発表論文等:
  1. Yoshida et al. (2010) Plant J. 61:672-685.
  2. 藤田ら (2010) 植物のシグナル伝達(柿本ら編)共立出版, pp.84-91.

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