研究成果

タイで共同育成したサトウキビ新品種の登録-サトウキビ野生種を利用して、多用途利用可能な新品種を育成-

平成27年7月6日

国立研究開発法人国際農林水産業研究センター

ポイント

  • JIRCASがタイ農業局と共同で育成し登録した初めての品種
  • サトウキビ野生種と従来の製糖用品種を交配した種間雑種の後代
  • 砂糖だけでなくエタノール生産やバガス利用等の多用途利用に適した、株出し栽培における収量の減少が少ないサトウキビ新品種

概要

 国際農林水産業研究センター(JIRCAS)がタイ農業局コンケン畑作物研究センターと共同で育成したサトウキビ3品種(TPJ03-452、TPJ04-713、TPJ04-768)1) が、2015年2月25日付けでタイ農業局植物品種保護課に新品種として登録されました。JIRCASとタイ農業局との長い共同研究の歴史で初めて共同で申請し、登録した品種になります。また、JIRCASが海外で初めて登録したサトウキビの品種です。 
 これらの新品種は、タイで収集したサトウキビ野生種2) とサトウキビ製糖用品種を交配して得た種間雑種に、製糖用品種を再び交配して得られたものです。製糖用品種と比べると、茎は細いものの茎数が多く、また、砂糖含量は低いものの原料茎収量は多いため、面積あたりでは同程度以上の砂糖収量が得られます。さらに、製糖用品種に比べて面積あたりで1.5倍以上の繊維収量があることから、砂糖だけでなくエタノール生産やバガス3) 利用等の、多用途利用に適した品種です。 
 タイにおけるサトウキビの主産地である東北タイでは、サトウキビの株出し栽培4) における収量が低く、株出し栽培が1年しか継続できないという問題があります。これらの新品種は、株出し栽培における収量減が少ないことを特長としており、従来の製糖用サトウキビが少収になる圃場での多回株出し栽培を可能とすることが期待されています。 
予算:運営費交付金

問い合わせ先など

  • 国際農林水産業研究センター(茨城県つくば市)理事長 岩永 勝 
    研究推進責任者:プログラムディレクター 加納 健    
    研究担当者:熱帯・島嶼研究拠点 安藤象太郎       
    広報担当者:情報広報室長 森岡伸介  

    プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp

本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブに配付しています。

東北タイにおけるサトウキビ栽培の現状  

 タイ国は世界第4位のサトウキビ生産国で世界第2位の砂糖輸出国です。サトウキビは、砂糖生産の原料としてだけでなく、エタノール等のエネルギー生産にも利用されている、重要な作物です。JIRCASが研究対象地域としている東北タイは、タイ国における最大のサトウキビ生産地域ですが、長く厳しい乾季や肥沃度の低い砂質土壌の分布によって、株出し栽培が1年しか継続できないと言う問題を抱えています。

新品種開発戦略と新品種開発までの長い道のり  

 こうしたことからJIRCASは、東北タイの中心に位置するコンケン畑作物研究センターと共同研究を行い、株出し特性が改善され不良環境に適応できるサトウキビの開発を進めてきました。
 開発したサトウキビ新品種は、タイで収集したサトウキビ野生種とサトウキビ製糖用品種を交配して得た種間雑種に、製糖用品種をさらに一回戻し交配して得られたものです。製糖用サトウキビ品種は高糖性(高い砂糖濃度)を重視して開発が進められてきたため、遺伝的多様性が低く、製糖用品種間の交配では画期的な新品種の開発が難しい状況にあります。そこで、株出し特性や厳しい環境への適応性が優れるサトウキビ野生種を育種素材として利用し、高糖性は多少低下することとなっても、株出し栽培による砂糖やバガスの収量向上を重視して選抜するという戦略を取りました。JIRCASは1990年代後半からタイ農業局と共同でタイ全土からサトウキビ野生種を収集し、コンケン畑作物研究センターで保存し、特性を評価してきました。こうして維持してきたサトウキビ野生種の中から適切なものを選び、製糖用品種との交配を行ったのが2003~2004年です。このように長い年月をかけて新品種開発に至っています。

新品種と従来の製糖用品種とで異なる特徴  

 新品種は製糖用品種と比べると、茎数が多いため、製糖用品種では収量(原料茎重)が低下する株出し栽培においても、高い収量を維持することができます。砂糖含量は低いが原料茎収量が多いため、単位面積あたりでは製糖用品種と同程度以上の砂糖収量が得られます。また、エタノール生産の原料になるグルコースやフルクトースと言った単糖を製糖用品種よりも多く含みます。さらに、製糖用品種に比べて面積あたりで1.5倍以上の繊維収量があります。こうしたことから、砂糖だけでなくエタノール生産やバガス利用等の、多用途利用に適した品種です。

東北タイにおける多回株出し栽培に向けて  

 タイにおけるサトウキビの主産地である東北タイでは、サトウキビの株出し栽培における収量が低く、株出し栽培が1年しか継続できないという問題があります。これらの新品種は、株出し栽培における収量減が少ないため、従来の製糖用サトウキビが少収となる圃場での多回株出し栽培を可能とすることが期待されています。JIRCASは、新品種の多回株出し栽培における収量を検討するための圃場試験を進めるとともに、製糖工場などへ新品種を配布し、普及に向けた評価を開始しています。今後、これらの品種を使うことで、糖生産以外にエタノールや発電、飼料等の多目的利用を行い、サトウキビ農家や製糖業に新たな価値(ビジネス)が形成されることが期待されますが、その際には、我が国のエタノール生産技術や機械収穫技術も貢献できると考えます。

用語の解説  

1)TPJ03TPJ04
TPJのTPは、コンケン畑作物研究センターのサトウキビ育種を行っている支所がある地名のタプラ(Tha Phra)の頭文字から、JはJIRCASから取りました。03や04はサトウキビ野生種と製糖用品種の交配を行った2003年と2004年を示しています。 

2)サトウキビ野生種Saccharum spontaneum L. 
現在利用されている製糖用サトウキビの祖先種で、和名ではワセオバナとも言われます。サトウキビの収量性や耐病性などを改良する目的で、サトウキビ育種への利用が図られています。JIRCASは1990年代後半からタイ農業局と共同でタイ全土からサトウキビ野生種を収集し、コンケン畑作物研究センターで約500系統を保存し、その特性を評価してきました。 

3)バガス 
製糖工場でサトウキビの茎を圧搾して砂糖ジュースを絞り出した後の、絞りかすをバガスと言います。製糖工場で必要なエネルギーはバガスを燃やすことによってまかなうことができ、さらに余剰バガスはコージェネレーション(熱併給発電。発電時の排熱も利用する効率のよいエネルギー供給システム。)で利用されています。 

4)株出し栽培 
サトウキビは、1年目には茎を植え付けて栽培を行いますが(新植栽培)、2年目以降からは、収穫後の刈り株から再生する芽を育てることによって、新しく植え付ける事無く、栽培を続けることができます。これを「株出し栽培」と呼びます。東北タイの株出し栽培では収量が新植栽培の半分近くに急減します。そのため株出し栽培が1回しかできない場合が多いという問題を抱えています。これに対して、オーストラリアやブラジルでは、5から6回の株出し栽培を行っています。 
株出し栽培は、新植栽培のための土地の準備や種茎の費用が不要になるため、生産コストを低く抑えられます。また株出し栽培を続けている間は不耕起栽培になりますので、耕起による土壌有機物の消耗を押さえた環境保全型の栽培になります。

写真1 新品種TPJ03-452

写真1 新品種TPJ03-452 茎が細く茎数が多い、一番野生種に近い特性を持つ品種です。

写真2 新品種TPJ04-713

写真2 新品種TPJ04-713 TPJ03-452とTPJ04-768の中間的な特性を持つ品種です。

写真3 新品種TPJ04-768

写真3 新品種TPJ04-768 茎が太く糖度が高い、一番製糖用品種に近い特性を持つ品種です。

写真4 製糖用品種Khonkaen 3

写真4 製糖用品種Khonkaen 3

写真1~4 品種登録申請後に確認のために行われた栽培試験における新品種3種と製糖用品種。担当部局が確認後、ネット上でパブリックコメントを求めた後に品種登録されました。

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